日本のタンナーTanner

時代のニーズに即したイノベーティブな革づくりを推進
協伸株式会社（兵庫県姫路市）

多種多様なサンプル。オーダーに応じて柔軟に革を仕上げる。

最新鋭の機械を次々に導入し品質向上を実現

協伸株式会社の創業は1910年。1972年の法人化を経て、 100年以上にわたり革づくりに邁進している。同社の掲げる理念は「The Leather for Innovation」。現状に満足することなく、常に最新の知識と技術を吸収し、より良い革を生産するための努力を惜しまない。

この方針を決定付けたのが、3代目の金田陽司さんだ。金田さんは、ドイツ留学の際に現地の国家資格「Leder Tehinikā」（レダーテクニカー／皮革技術指導者＝オーバーマイスター）を取得。帰国後、感覚重視だった職人たちの作業を見直し、化学的知見に基づいた革づくりを確立した。環境に配慮し、LEACH規則（化学物質の登録・評価・認可・制限にまつわるEU法）に準拠した革づくりを続けているのも特徴だ。

色見本を見て入念に打ち合わせる代表の金田陽司さん（左）と吉原ステファニーさん。

同時に、薬品や原料、皮革用機械の仕入れルートを独自に開拓。自社で直接輸入する仕組みを整備し、コストを抑えて高品質の革を生産することに成功している。

「私たちには、イタリアで最先端となっている色を同時進行で使いたいという思いがあります。染料や顔料を直接輸入するルートがあることで、トレンドの色をタイムラグなく革に反映できるのは強みですね。ただし、イタリアで人気の色をそのまま使うのではなく、国産の染料や顔料を組み合わせて調色を行い、日本人の好みにマッチするよう仕上げます」

そう語るのは、娘の吉原ステファニーさん。同社はメーカーとの直接取引を行っているが、先述のような体制が整っているため、「流行色の革が欲しい」というオーダーにもすぐに応じることができる。

染色剤や薬品を配合する調色作業。トレンドの色に対応できる強みを持つ。

最新のものを導入するというマインドは、機械の導入にも反映されている。

「高性能な機械を次々に導入することで、革そのものの品質を上げつつ業務効率化も実現できます。例えば、最新型の水絞り機は、水を吸って重くなった革を自動で絞ってくれるので、女性でも作業がしやすいです。また、ネット張り乾燥機は自動で圧力を計測しつつ革を引っ張ってくれます。ネット張り乾燥は外部から注文を受けることの多い工程ですが、当社が最新のネット張り乾燥機を持つことで、皮革業界全体に少しでも貢献できればと考えています」

若手の育成に力を注ぎ血の通った技術を継承

ネット張り乾燥。温度、湿度、送風の力を調節して革を乾かしていく。

むろん、良質な材料や最新の機械があれば万事解決という話ではない。革のクオリティをコントロールするのは、職人の技術だ。先述したネット張り乾燥について、吉原ステファニーさんは次のように話す。

「例えば、水性仕上げをするにはやわらかい革が必要です。乾燥機に入れている時間が長すぎると、革の水分が飛び柔軟性が失われます。反対に、水分が残った状態で機械から革を出してしまうと、湿気の多い時期はカビの原因になります。適切な水分量を確かめるには、職人が触るしかない。どれだけ機械が新しいものになっても、人の手は絶対に必要なんです」

上長からインプットした知識を別の若手にアウトプットして自分自身に定着させる。

各工程のレシピ化で安定供給を図ってきた同社だが、職人による血の通ったひと手間が革の品質を左右することは社員全員が肝に銘じている。現在は、長年蓄積してきた技術を次世代に託すべく、若手の採用および育成に尽力。入社後の研修において、薬品一つひとつの効能から作業の意味を徹底的にレクチャーし、革づくりのノウハウを丁寧に伝えている。

「長年かけて若手を育ててきたのですが、最近になってようやく実を結びつつあります。ただ、今の若い人が同じ会社に30年勤めることは稀だと思うので、職人の入れ替わるサイクルが早い中で技術を共有する必要があります。また、私たち上長は、次のステップのためになるような指導ができないかと常に模索しています」

協伸を支える長女の吉原ステファニーさん（右）と次女のクリスティーナさん（左）。

職人の入れ替わりが早くとも、最短距離で技術の共有ができれば革づくりは続けられる。吉原ステファニーさんは、革製品の魅力を次のように語る。

「革は人類が太古の昔から使い続けてきた素材です。ファッションをコーディネートするとき、革製品を一点使うと全体が引き締まりますし、副産物由来の素材を使うことでサステナブルな社会に貢献しているという意識を持つこともできる。長く持てば持つほど愛着が湧くので、自分ならではのストーリーを育てていってほしいですね」

すべては、生活に寄り添う優れた革を届けるため。革新的なマインドを胸に秘め、ハードとソフトの刷新を図りつつ、これからも本革の可能性を追求し続ける。