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日本のタンナーTanner

日本の皮革文化の発展に尽力する老舗タンナー
シンヤ工業株式会社(兵庫県たつの市)

1技術と経験がモノをいう染色に自信あり

日本有数のタンナー集積地である兵庫県たつの市。シンヤ工業株式会社は、この地域に町村制が敷かれる2年前の1887年に設立された、131年の歴史を誇る老舗のタンナーである。
「創業者は私のおじいさん。当時はピット槽をこしらえて、軍需品用の革をなめしていたみたいや」
そう語るのは、3代目の徳永耕造さん。戦後、クロムなめしが主流になると、生産性が一気に向上。工場を拡張すると同時に設備も刷新し、最盛期には一日に1000枚もの丸革をなめしていたという。
シンヤ工業株式会社が多くのメーカーから高く評価される所以は、その染色技術にある。下地となる革の色には差異があるので、均一かつ風合いのある仕上がりにするためには、職人の卓越した技術と経験が必要となる。
「たとえば、午前と午後では湿度が違うから、染料や水の量を変えたりする必要があります。うちには色合わせの職人が6人いますが、全員が難しいオーダーにも対応できる力を持っています。ほかのタンナーさんができなくてうちができることは、納期が早い、色合わせが上手い、値段が安い。こうやって話すと牛丼屋さんみたいやけど(笑)」
笑いながら話してくれたのは、耕造さんの息子である常務の徳永憲司さん。その表情からは、確かな自信がうかがえる。

2早い、上手い、安い。三拍子そろった革づくり

そんなシンヤ工業株式会社の革に惚れ込んでいるメーカーの一つが、神戸に拠点を構えるハートビートだ。
ハートビートでは靴用に「トロピカーナ」という名前の革を使っているが、シンヤ工業の営業課長を務める森崎之夫さんによると、「トロピカーナは30年前に在籍していた技術者が開発した革で、独自の染料仕上げによる鮮やかな色味と透明感が特徴です。一時は大手の製靴メーカーにもトロピカーナを卸していたこともあります」
憲司さんが定義する良い革は、色、風合い、硬さ、形のクオリティーが高く、それぞれのバランスが取れていること。その上で値段が安ければ申し分がない、という考え方だ。トロピカーナは、これらの条件を満たす革であるといえるだろう。
このように、多くのメーカーから長年にわたって愛される革を製造しているシンヤ工業だが、現状に胡坐をかかず、買い手のメリットをとことんまで追求している。

3さらなる発展にはメーカーとの協力が必須

憲司さんは、日本のタンナーが未来を切り開くためには、メーカーと力を合わせて積極的なブランディングを展開することが必要だと考えている。
「イタリアでは、メーカーがタンナーに対して一心同体でブランド化していきましょう、という気概を持っています。日本でも、大手メーカーがタンナーの名前を大々的にアピールしてくれたら、タンナーはもちろん、革そのものに興味を持つ方が増える可能性があると思いますね」
また、ジャパン・レザー・プライド・タグについては、日本の天然皮革をアピールするという段階から一歩踏み込み、「タンナーの名前を記載することでトレーサビリティを確保するのも一つの手やと思う」と、耕造さんがアイデアを聞かせてくれた。
「私も長いことやってきたけど、日本人の生活にはまだまだ革がなじんでいないな。ヨーロッパでは生活に密着しているけど、日本はまだまだや」
半世紀にわたり皮革業界を見つめ続けてきた耕造さんは、日本人と革の関係性をこう語る。むろん、ヨーロッパと日本では、革に親しんできた歴史の差もある。壁を乗り越えるために、シンヤ工業はこれからも良質な革を提供し続ける。

2018/11/30 公開
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