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革市通信KAWAICHI COLUMN

暮らしに寄り添う日本の革2021年09月17日

革の醍醐味は、お客さまと一緒に「変化」を楽しみ、
時を超えた感動を共有できること

有限会社 アトリエフォルマーレ/三原英詳さん

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革の醍醐味は、お客さまと一緒に「変化」を楽しみ、時を超えた感動を共有できること

身に着ける衣類、家具、そして小物たち......。身近に存在する革に関するモノコトを、革を愛し、ふだんのライフワークとしている人に聞く。日本の革の魅力って、すばり何ですか?

日本で鞣した天然皮革を多く使い、機能性、デザイン性、存在感をコンセプトに「男性視点のレディースもの」を意識したプロダクトを展開するブランド「SAN HIDEAKIMIHARA」。デザイナーの三原英詳さんに、日本の革の魅力やデザインへのこだわりを伺うため、東京・墨田区の一角に建つ製作拠点「アトリエフォルマーレ」を訪ねた。

美しさと機能をあわせ持つ革製品を、お客さまと共に育てる喜び

今年、ブランド誕生22年目を迎えたSAN HIDEAKIMIHARA。洗練された空気感と機能美を兼ね備えた独特のデザインが、30〜40代女性を中心に根強い人気を集めている。一見、"だまし絵"に見えるアウトポケットが、実はスマートフォンをすっぽり収められる仕様になった2ウェイトートバッグや、バッグの中身が見えないように、内側の両サイドにファスナーをあしらったシェル型トートバッグなど、使い手のことを考えた便利な機能が随所に盛り込まれている。

SAN HIDEAKIMIHARA / デザイナー 三原英詳さん
「毎シーズン、洋服や家具、雑貨などのトレンドに合わせてコンセプトを考え、デザインに落とし込んでいくのですが、女性視点で作られた可愛さやフェミニンな雰囲気には勝てないので、男性視点ならではの強みを活かし、機能性を重視したデザインを意識しています。『こんなギミックを効かせたら面白いかも?』と感じたことを形にすることもあれば、『こんな機能があると嬉しい』という女性の生の声をもとに、アイデアを発展させて機能性を付加していくこともあります。いずれにしても、持つ人が使いやすく持った姿がきれいに見えるアイテムを一番に考えています」
SAN HIDEAKIMIHARA / デザイナー 三原英詳さん

アイテムや具現化したいイメージによって使う革はさまざまだが、染料染めのタンニンなめしを施した、透明感のあるナチュラルな風合いの牛革など、「天然の素材だと分かる雰囲気のある革を選ぶことが多い」という。

「本来の革は、自然が生み出すものなので、同じ製品でも、一つひとつが異なる表情を持っているし、時間と共にその表情や質感はさらに変化していきます。革の醍醐味は、僕たちが製品として作り上げたものを、お客さんが育ててくれること。日々の手入れだったり、使う人の性格や生き方が製品に反映されていく面白みがあるんですね。イベントを開催する時などに、持ってきて見せてくれる方が多くいるのですが、『すごくいい味が出てきましたね』と、お客さんと一緒に感動を共有できる素材って、革だけだと思います。デザインしたらそれで終わりではなく、お客さんにバトンタッチしてからも、1年、2年とコラボレーションが続いていくような感じですね。育てたものを一緒に楽しめるような使い方をして欲しいですし、長く使ってもらえるデザインを心がけたいと思っています」
SAN HIDEAKIMIHARA / デザイナー 三原英詳さん

神々が宿る島で生まれた新ブランドの魅力は、人のぬくもり

アトリエフォルマーレの代表として多忙な日々を送る中、2020年1月、三原さんは長崎県の離島、壱岐島に自社工場を立ち上げ、ファクトリーブランド「YUFU(ユフ=結ふ)」をスタートさせた。ここでは、地元の若者たちと共に、サスティナブルなものづくりに取り組んでいる。

SAN HIDEAKIMIHARA / デザイナー 三原英詳さん
「壱岐島は、2018年に国が開始した『SDGs未来都市』としていち早く選定された島です。持続可能な社会を実現するために、さまざまな取り組みが進められている中、この工場は、島内での雇用を増やすことを目的として開設しました。壱岐島には、"幻の和牛"として知られる壱岐牛がいるんですが、YUFUでは、これまで食用のみに使われてきた壱岐牛の皮を財布などのアイテムに使うことで、SDGsの一端を担っています。また、壱岐島は、大小1000以上の神社がある神秘的な島で、天照大御神の次に生まれたとされる日本の三貴神の一柱、月讀命(つくよみのみこと)の総本社があります。YUFUの財布はすべて、この月讀神社でご祈祷していただいています。財布は毎日持つものですし、財布そのものがお守りになれば毎日守られるし、いいなと思って。コロナ禍のこのご時世だからこそ、そういう気持ちって大切ですよね。今までの縁起物とは違うアプローチで、デザイン性のあるアイテムを作っています」
SAN HIDEAKIMIHARA / デザイナー 三原英詳さん

この7月21日には、自社工場の一角に工房ショップがオープンした。赤、青、緑など、壱岐島の美しい自然の中にある原色をまとった製品は、地元の若手職人たちの手によって一つずつ丹念に縫製されている。

「今、工房では3人の女性職人が頑張ってくれています。一般に、職人というと、なかなか会いづらい存在ですが、工房では、実際に彼女たちが作っているところも見られますし、ワークショップでも教えています。今後は、壱岐島に行けば『会える職人』として、彼女たちの存在を広めていきたいですね。このブランドでは、職人たちが作っている様子が想像できたり、人間的な温かみが感じられるようなストーリー性を集約させていきたいと思っています」

日本の革の素晴らしさは、卓越した技術力と安定した品質

あらゆる原皮は、「皮から革」へと不可逆的に変える鞣し加工を施すことによって、製品づくりに適した素材となる。ヨーロッパをはじめ、海外から輸入されるものも多いが、三原さんにとって、日本ならではの革の魅力とはどんなところにあるのだろうか。

SAN HIDEAKIMIHARA / デザイナー 三原英詳さん
「革の加工技術においては、日本のタンナーさんは世界でも突出したレベルにあると思います。素晴らしいと思うのは、品質が非常に安定していること。コストを抑えて品質を保つのが得意で、皆さん、日々すごく努力されている感じがします。欧米人と日本人の肌が違うように、牛の原皮なども、育った環境によって、どうしても一様にはならないこともありますが、そうした変化にも、技術でもって順応に対応できるのが日本の良さ。革は、いろんな知識の混ざった職人技なので、みんなで案を考えて、いい意味で期待を裏切ってくれることもあります。それと、やっぱり言葉が通じるので、素材自体の軽さや色の透明感など、求めるイメージを伝える時に、こちらの感覚を伝えやすいですよね。タンナーさんの存在があってこそ、僕たちはものづくりができるのですが、真面目すぎる部分があるので、もっと遊び心を持ってもらえると、さらに楽しくなると思いますね」

複数のオリジナルブランドを展開し、クリエイションの幅を広げている三原さん。「今後、どんな革の可能性をプロダクトに落とし込んでみたいですか?」と聞くと、こんな答えが返ってきた。

SAN HIDEAKIMIHARA / デザイナー 三原英詳さん
「革製品というと、バッグや財布のイメージが強いですが、革って、実は適材適所に変化できるものです。元々、ヨーロッパでは壁紙として使われていましたし、最近は日本でも、フライパンの持ち手など、グランピングのアイテムにも使われています。今後は、ライフスタイルの分野で、革の良さとうまくマッチングできるものを作って、それを価値あるものにできればいいなと思っています」

アトリエフォルマーレ

●場所/〒130-0004 東京都墨田区本所1-1-8
●電話/03-6682-7390
●URL/http://san-3.com/

有限会社 アトリエフォルマーレ

有限会社 アトリエフォルマーレ

遊覧船の走る隅田川よりほど近い場所に位置するアトリエフォルマーレ。代表の三原英詳さんは、1999年に個人ブランドSAN HIDEAKI MIHARA(サンヒデアキミハラ)を立ち上げ、2003年にアトリ……

取材・文/岸由利子 
写真/林和也

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