素材から作りまでメイドインジャパン。
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タンナーとメーカーの取り組みTanner & Maker

坂本商店 × 有限会社 清川商店

漆がきらめく「革の黒ダイヤ」で勝負

代表の坂本弘さんと奥様の美記子さん、ご子息である悠さんの3名で営んでいる坂本商店。2023年で創業100周年を迎える長い歴史の中で、一貫して「黒桟革(くろざんがわ)」という特殊な革を製造してきた。

「黒桟革は、古くは甲冑、現在では剣道の防具・竹刀に使われている革で、なめしと漆塗りの技術が融合して完成します。漆の上品なきらめきから『革の黒ダイヤ』とも呼ばれており、近年は国内外問わずアパレル業界からの注文が増加しています」
悠さんの言葉どおり、黒桟革の評価は年々高まっている。例をあげると、2014年の香港APLFのMM&T展(素材展)では、日本人初となるベストニューレザー部門の大賞を受賞。2016年にパリにて開催された「プルミエール・ヴィジョン」では、PVアワード(テキスタイルアワード)のレザー部門でハンドル賞を受賞している。
また、SDGsという言葉が頻繁に使われる以前から、環境負荷の低減を心がけているのも坂本商店の特徴だ。2007年にはエコテックス(R)認証を取得。現在は製造するすべての革が日本エコレザー基準(JES=Japan Eco Leather Standard)の認定を受けている。

今回の『ジャパンファッションEXPO』で展示する革は、「姫路黒桟革 型押し」と「姫路黒桟革 極(きわみ)」の2種類のみ。メーカーに託す革としては、重ね塗りした漆が上品にきらめく「姫路黒桟革 型押し」を選んだ。
「なめしと漆塗りという伝統技術の粋を集めた黒桟革の型押しバージョンです。型押し黒桟革は細かく均一なシボと漆の独特なきらめきで上品な雰囲気を醸し出しています。漆には抗菌・抗ウイルス作用があります」

一方の「姫路黒桟革 極(きわみ)」は全6色をラインナップしているが、それぞれに個別の名前があり、レシピも少しずつ異なっている。弘さんは「当日は全色展示するので、なめし方や特徴を知りたい方は気軽に話しかけてください。詳しく説明します」と、話してくれた。

歴史ある黒桟革という素材は、はたしてどのように変化するのだろうか。

古風な革がエッジの効いたプロダクトに

坂本商店の革を選んだのは、1960年創業の有限会社 清川商店。ものづくりの街、東京・墨田区に工房とショップを構える。

メインで生産しているのは、レディースのフォーマルバッグ。プライベートブランドとしては、ビジネスユースを対象に機能性を追求したazzuni(アッズーニ)、クラシカルなデザインを志向するKIYOKAWA(キヨカワ)を展開。女性の暮らしを彩る普遍性の高いものづくりで評価を受けている。
代表取締役の松村由美さんは、「黒桟革のよそではお目にかかれない風合いに惹かれました」、由美さんのご息女であり職人でもある美咲さんは、「風合いの良さはもちろん、国産の原皮を日本の伝統技術である漆で加工しているというストーリーが面白いと思いました」と、それぞれの感想を語る。

ふたりが口をそろえるのは、「古風な革を使って現代的な製品に仕立てる」というミッション。素材の良さを最大限に引き出した結果、ほかに類を見ない存在感を放つハンドバッグが完成した。
また、美咲さんは「レディースのフォーマルバッグは使うタイミングが限られるので、しまっておく時間の方が長くなります。漆に含まれる抗菌効果に期待したいですね」ともコメントしてくれた。

歴史のある革をエッジの効いたプロダクトに――。ふたりの試みはみごとに成功した。

第13回 ジャパン ファッション EXPO 秋 レポート

普段では考えられない出会いに恵まれた

黒桟革を製造する日本唯一のタンナーである坂本商店。有限会社 清川商店とコラボするかたちでブースに立った。

同社は今年が初出展。坂本悠さんは、「これまではレザー専門の展示会に出展することがほとんどだったので、さまざまな視点を持つ業界の方が来場されて刺激的でした。サステナブル素材を探している方など、普段だったら考えられないような出会いがありました」と、出展をポジティブに受け止めているよう。

中でも印象的だったのが宿泊業者で、「ホテルのアメニティボックスやルームシューズなどに革を使ってみたいという問い合わせがありました」。

黒桟革(くろざんがわ)そのものに対するリアクションも上々で、「レザー好きの方に対する認知度の向上を感じた一方で、知らない方には『日本にこんな革があったんだ!』と驚いてもらえるケースもあり、本当に参加してよかったと思いましたね」と、目を輝かせた。

プロダクトとのセット展示という点については「確実に効果があると感じました。革だけだと製品になったときのイメージが浮かびにくいので、具体化した製品と組み合わせて見せるのは大きなメリットだと思いました」と、語った。

同じ会場では『サステナブル ファッション EXPO[秋]』が開催されており、その足で国内OEMゾーンに足を運ぶ人も見受けられた。悠さんは、「そういう方は革が食肉の副産物であることをご存じの場合が多かったです。逆に知らない方に向けてはしっかり説明するよう心掛けました」と、振り返った。

今後の課題について聞くと、「製品ラインナップをもう少し増やすことで、革の幅広い用途が伝わりやすくなるように思いました」と、提言した。

清川商店の松村由美さんは、「コラボした2社の革を使った製品について、どう展開していくのかをさらに考えたいです」と、未来を見据えて話してくれた。
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