消費者のニーズを満たし、ものづくりの背景を発信
株式会社 ふく江(大阪)
1量産品でありながら嗜好品
バッグメーカーのふく江がオリジナルブランド「artigiano(アルティジャーノ)」を立ち上げたのは、2009年のこと。同社は2007年に下請け工場からOEM専門ファクトリーへと舵を切ったが、急転直下でメインの得意先が自社工場をつくることになったため、生き残りをかけての船出となった。
「スタート当初は、世の中にないものをつくるべきだと考えていました。でも、奇抜なものはやっぱり売れないんです。なるほど、ニーズがないから世の中にもないんやな、ということにそこで気づきまして(笑)。現在は、スタンダードなプロダクトに、いかに付加価値をつけてオリジナリティを出すかに力を注いでいます」と語るのは同社福江光洋さん。
現在は、革の風合いを生かしたシンプルで飽きのこないバッグが主力。
「ものづくりをするときに何より大切なのは、イメージです。買ってくれた方がどんな時に持つのか、手触りはどうか、そういったことを想像しながらつくっています。僕らが製造しているのは、量産品でありながら嗜好品でもありますからね」
2軽くてやわらかい馬革を使用
ふく江では、オリジナルブランドを始めてから、タンナーから革を直接仕入れている。とくに深い付き合いをしているのが、姫路の馬革専門タンナーであるニッタだ。
「タンナーさんには50社くらい伺い、設備や製造方法までいろいろと見せていただきました。ニッタさんと付き合うことになったのは、馬革を扱っているというのはもちろん、僕のオーダーを実現してくれるタンナーだったからです」
アルティジャーノのバッグを持ってみると、その軽さとやわらかさに驚かされる。この質感は、ニッタとふく江が共同開発した革だからこそ表現できたものだろう。
「僕なんかはごっつい革が好きやけど、催事で売り場に立つと、女性から『もっと軽い方がいい』ってパッと言われるわけです。そういった声を反映して、ニッタさんの革を使い、軽くて手触りが良く、見た目にもシンプルなバッグをつくっています」
また、タンナーから直に革を仕入れることで、価格帯を比較的安価に抑えているのもふく江の強みの一つ。つまり、徹底して消費者視点が貫かれているというわけである。
3付加価値をいかに伝えるかが大切
ただ、プロダクトリーダーの福江光洋さんは現状に満足しているわけではない。アルティジャーノをより広く知ってもらうため、2017年の春からはインターネットショップも始めた。実際に売り上げも好調で、今後は「ブランドとしてのメッセージの発信方法を工夫していきたいです」と、語ってくれた。
「日本のメーカーは全般的に、繊細なものづくりに長けていると思います。足りないのは、消費者が何を望まれているのか、という意識。僕自身、信頼できる知人から『これ以上、ものづくりを一所懸命やる必要はないんちゃう?』と言われたことがあって。それは、ある程度の数が売れているのだから、どうやって伝えるかにシフトせなあかん、ということです」
そういった意味で、ジャパン・レザー・プライド・タグについても、「日本の天然皮革であるということ以外に、具体的なメリットを提示できればより広まるのでは」と、アイデアを聞かせてくれた。
大量生産、大量消費ではなく、多少高価でも良いものを長く使いたいと考える人が増えている昨今。福江さんは時代の風を読み、消費者のニーズを満たすものづくりを続けていきたいと思っている。