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日本の皮革製品メーカーMaker

一子相伝の伝統技法で精緻な美を表現する甲州印伝
株式会社 印傳屋上原勇七(山梨県甲府市)

燻べの技法を用いた合切袋(左が正平柄、右が蜻蛉柄)と長財布

鹿革と漆の組み合わせが甲州印伝の原点

株式会社 印傳屋上原勇七の創業は1582年。江戸時代に入ると、遠祖の上原勇七が鹿革に漆付けする甲州印伝を創案し、その技法を用いた巾着などが粋を好む洒落者の間で流行。当時の様子が『東海道中膝栗毛』に記されるなどして、さらに知名度が高まっていった。

欧米人向けのサイズ感を意識した「INDEN EST. 1582」のニューヨークトートバッグB。

以後、一子相伝で伝わって来た甲州印伝。現在はその技法の一部が公開されており、1987年には、通商産業大臣(現経済産業大臣)指定の伝統的工芸品として認定を受ける。また、2017年には英国王室御用達ブランド「Asprey(アスプレイ)」とコラボレーションするなど、伝統を守りつつも新たなチャレンジを続けている。

アイテムとしては、小物からバッグまで幅広くラインナップ。2011年には、海外に向けたオリジナルブランド「INDEN NEW YORK」を立ち上げ、欧米人向けのサイズ感や機能性を追求したプロダクトを考案し、その魅力を世界に発信している。

甲州印伝に欠かせない素材の鹿革。

ここで、甲州印伝に欠かせないふたつの天然素材について触れたい。営業部長の浅川浩一さんは、以下のように語る。

「甲州印伝は、鹿革であることが前提の伝統工芸品です。鹿革は軽くてやわらかく、また丈夫であることから、かつては鎧兜、現在は武道の道具に使われています。ふわりとなめらかで肌馴染みがよいので、皮革製品としての使い心地は抜群です」

鹿革と同様に重要なのが、日本の美を象徴する素材のひとつである漆だ。

鹿革に刷り込む漆は職人が硬度を調整する。

「鹿革は浸透性が良くシミができることもあるので、撥水性を付与するために漆を使い始めたのが甲州印伝の始まりと言われています。こうした実用性に加え、装飾性にも優れており、時間の経過とともに豊かなツヤを呈するようになります」

ソフトな鹿革と硬質な漆。この組み合わせが、甲州印伝を唯一無二の伝統工芸品へと価値を高めている。そして、鹿革の地の色、漆の色、模様の組み合わせにより、多種多様なパターンを生み出すことができる。

熟練の技法を受け継ぎ、時代の感性を彩る

甲州印伝は、卓越した技術を持つ職人の技によって完成する。

代表的な技法として知られるのが漆付けだ。鹿革の上に型紙を載せ、漆を刷り込むことで模様を施す。職人は天然素材である本革と向き合い、漆を均一に、そして立体感を際立たせるように塗っていく。

鹿革の上に型紙を置き、漆を均一に塗っていく。

「職人は、顔料を加えた色漆を練り、季節や天気等をはじめ諸条件に合わせてその硬度を調節します。ヘラにとった漆を均等に刷り込んでいく作業は、高度な技術が必要となります。乾燥させる際は、温度・湿度を管理する室で、2日以上かけてゆっくりと乾固させます」

そう語るのは、広報部の早川さん。漆によって浮かび上がらせる甲州印伝の模様には、小桜、蜻蛉(とんぼ)、青海波(せいがいは)など、日本ならではの様式美が多く採用されている。

ストックしている型紙は数百種に及ぶ。

「いわゆる古典柄には意味があり、生活における願いや祈りが形になっています。たとえば亀甲文様であれば、長寿吉兆を願う縁起物の模様として親しまれています。そのため、ご自身のお守りにすり、あるいは思いを込めたプレゼントとしてお選びになる方もいます。現在は古典柄だけではなく、お客様のニーズを汲み取った新しい模様の製品も提案しています」

同じ模様付けでも、燻べ(ふすべ)の技法はまるで異なる。太鼓と呼ばれる筒に革を張り、藁を焚いた煙によって茶褐色に染め上げていく。糸を巻き付け縞模様にする手法と、革の上に糊で型紙を貼り付けて模様を施す手法の二つがあり、職人の緻密な技術により、鹿革に味わい深い模様が生まれる。

燻技法は、煙を発生させることが目的なので、藁は火を出さずに燃やす。

もうひとつ、伝統技法として忘れてはならないのが更紗技法だ。名前の由来は、インドなどから南蛮貿易によってもたらされた更紗模様から。一色ごとに型紙を変えて顔料を塗ることで、一枚の革に豊かな彩りがもたらされる。

このような技法を受け継ぎつつも、「時代に合わせたアップグレードが必要」と話すのは、専務取締役の上原伊三男さんだ。

専務取締役の上原伊三男さん(右)と営業部長の浅川浩一さん。

「国内にもまだまだ甲州印伝を知らない方はたくさんいます。今の時代の人々に使っていただくことで次の世代に受け継がれていくと思いますので、伝統にあぐらをかくのではなく、デザイン面や情報発信などで新たなチャレンジを続けていきたいです。また、安心して使っていただくために、素材調達先の環境配慮や人権尊重の確認も継続していく必要があります」

伝統工芸品に時代の感性を彩る甲州印伝は、常に進化を続けている。
2023/8/29 公開
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