
ご無沙汰しております。ライターの鎌倉です。春にお財布のご紹介をした以来ですので、あっという間に綻んだ春、記録を更新し続ける暑い夏、なんとなく冬になりきれない秋を迎え、約1年ぶりの革市通信です。変わらずお元気でいらっしゃいましたか?今回は、私が革市通信を担当させていただくことになってから初めてのインタビュー記事です。
今まではアイテムにフォーカスしてお話をして参りましたが、今回から3回は「素材あってのこのアイテム タンナーの仕事と日本の革製品」と謳い、3社のタンナーさんと、その素材でなければ作ることができないレザーアイテムをご紹介させていただきます。
特に女性用のアイテムに多く使われている「ピッグスキン」。デザイナーさんたちから「繊細な色が出る」「小さなアイテムを作るのにも適した厚みに加工しやすい」など、その魅力について伺っていたので、工場で直接お話を聞くことができるこの機会、とても楽しみにして行ってきました!
東京・墨田区は「ピッグスキンのなめし」が地場産業のひとつとして知られています。その数ある工場のうちのひとつ、「石居みさお皮革」様にお邪魔して、石居信幸代表にお話を伺いました。
鎌倉
「石居みさお皮革」。こちらの社名はお母さまのお名前と伺いました。どのくらいの歴史があるのですか?
石居様
戦後から60年くらいこの仕事をしてる。今84歳です。まだその頃はクロムなめしの薬品は液体ではなく「粉末」で入ってきていたから、自分で混ぜて調合してたの。この墨田の地域一体でクロムなめしをやりはじめて、トップランナーと言ってもいいんじゃないかな。スエードがメインになったのは、それから10年くらいあとです。
(メーカー:株式会社 浪速屋商店)
石居様
1970年代半ばには、色々なものがカラフルに染められるようになったし、ファッションがそういう方向だったこともあって、手袋、靴、洋服...色々なものに使われるようになった。今は女性用が多いけどね。
鎌倉
取り扱いはほぼ「ピッグスエード」と聞きましたが...。
石居様
そうです。何でもできるんじゃないかな、長くやっているから。でも、スエードは難しいんだよ。表面のね、傷がすごいの。喧嘩したりケガの痕だったり。薬品の調合、染色も大変なんだけど、毎日勉強だよね。でも面白いから一生懸命やって、できた時の喜びがあるからね!
撥水とか防水とかツヤの違いも色々あって、種類がたくさんあります。世の中のニーズに合わせて色々作ってる。水着も可能だと思います。
鎌倉
水に浸かっても「コロコロッ」と弾いちゃうような?
石居様
コロコロどころじゃないよ!アルコール使って揉みこんでも吸収しないようなのもある。逆に、ピッグスキンで作る「セーム革」みたいに、水や脂を素早く吸うものもできる。それがわかるまでは大変だったけど。
鎌倉
「国内皮革の四大産地」のひとつである東京の墨田区界隈に、他にもピッグスエードを扱う工場さんがある中でも、御社の何が評価されていると考えていますか?
石居様
品質にブレがないものを作り続けるっていうことにはとても気を付けています。染料は、配合だけではなくて入れる「タイミング」が大事。その後、「いつ混ぜるか」もきちんと管理しないといけないの。付きっきりになります。
鎌倉
そういったことをし続けて、ブレがない品質が評価されているんですね。
石居様
原料を取引先の希望数ですぐに集めて、質も保って準備できるところも、ウチが評価してもらってるとこだと思う。生きものなので個体差がある中から、量が多くても、安定して同じ品質のものを集められるネットワークがあります。
鎌倉
いい革製品を作るスタート地点である「素材」にブレがあると、その先にある製品はもっと不安定になってしまいますもんね。特に女性のアイテムのための革となると、黒や茶色だけではなくきれいな色や薄い色も求められるから、より繊細な管理が必要になるってことか。原皮(げんぴ)集めからスタートして、色出しして、毛足の滑らかさやツヤ感の調整まで一貫してこちらで出来ることが、信用につながっているんですね。
石居様
はい。「買ってください」ってこちらから行ったことはないな。「こういう革を作ってください」って言われて、オーダーをいただく。あとは丁寧に、丁寧にやります。
鎌倉
今年も猛暑でしたよね。デリケートな技術が必要な「革」を扱うにあたって、大変だったことはなかったですか?
石居様
ウチで扱う原皮は群馬や品川から来るんだけど、その途中で腐らないかどうかが心配でした。「皮」の状態から「革」を作るなめしの作業に取り掛かれるまでに最低でも2、3時間はかかるんだけど、その後は待ったなし!
鎌倉
色々なアイテムに使われるピッグスエードですが、革を作るどの時点で、用途を絞った加工に分けられるんですか?これは靴用、これは服用、などというような。
石居様
原皮が入ってきた時点で見極めます。
鎌倉
60年の歴史の中で、色も質感もこんなに色々なものがあるのに、使われるものはその量と可能性に比例してないっていうのはちょっと残念ですね。70年代、80年代のカラースワッチや広告の華やかさは凄いです。
毛足の長さや色などのバリエーションで、一年中ファッションに取り入れられる素材としてもっと認知されて欲しいです。
JAPAN LEATHER ITEM
「石居みさお皮革」でなめされたピッグスエードを使った製品
鎌倉
何か、他にも御社の革で作っている面白いアイテムや今後期待したいものはありますか?
石居様
もう何十年も作り続けていて、百貨店で置かれているんだけど、スリッパみたいなの。靴下みたいに足を覆うデザインで、何度でも水洗いができるの。抗菌作用もあるし。あと、うちのスエードを使った「爪みがき」があるんだけど、「磨くもの」は可能性がもっとあると思う。
鎌倉
爪磨き!あれスエードだったんですね!ネイルサロンやドラッグストアで見たことあったけど意識していなかったです。スリッパのようなものとは、柔らかいルームシューズみたいなもの、ですね。スリッパより肌に近い状態でフィットするし、柔らかいから、床を踏みしめる感覚もわかってよさそう!滑らないし。ハイクラスのツーリスト用のノベルティとかにいいかも知れません。クオリティだけではなく、安全性や機能性、が数値化されて研究、アップデートされているから、他にも色々なアイテムに使われていくかも知れませんね。
石居様
日本で行われている「革の検査」はすごいんです。製品の性質だけじゃなく、作っている環境が自然や人体に有害ではないかどうかについても厳しいの。スエード面でも銀面でも、クロームなめしで薬品を変えながら実験すれば、もっと安全で面白い、色々なものができると思います。
───「なめしも大変だし、染色も大変。でも、面白かったんだよね。
色々作りたいから一生懸命やって。できた時の喜びがあるからね。」───
インタビューが始まってから、割と早い段階で石居代表がおっしゃったこの言葉。明るい事務所が更に明るくなるような笑顔が、この歴史を作ってきたのだな、と思いました。個人のデザイナーさん達からも、様々な業界の企業からも支持されている、石居みさお皮革のピッグスキン。今後もさらに私たちの生活を彩るアイテムが生まれるのが楽しみです。
「JAPAN LEATHER ITEM」内で「石居みさお皮革」のピッグスキンを使ったブランドは現在5つ。
製品はこちらからご覧ください。
あ、そうそう、最近何か、レザーアイテムをお求めになりましたか?私は「オリーブレザー」のブックカバーを色違いで2つお迎えしましたよ。
次回の革市通信もタンナーさんへのインタビューです。兵庫県に行ってきました。
それでは、また。
文/鎌倉泰子
石居みさお皮革
東京・墨田区には、ピッグスキンを製造するタンナーが集積している。豊かな水源である荒川沿いに工場を構え、各タンナーが腕を競う恰好でそれぞれ独自の革をつくっている。 その中の一社である石居みさお皮革……








