素材やデザイン、カラーなどを自分好みに合わせて選び、プロフェッショナルの職人が一つひとつ丁寧に仕立てるオーダーメイド――。
ファストファッションが定着した今、いつでもすぐ手に入る既成品と対極にあるオンリーワンの輝きは、クオリティ・オブ・ライフをより高めてくれる。
その中で、使い込むほどに味わい深くなる上質なレザープロダクトは、まさに"一生もの"だ。
今回、稀少なレザーベルトのオーダーメイドにフィーチャー。特別感を生み出すクラフトマンのこだわりからオーダーのポイントまで、その魅力に迫る。
快適性と品格を備えた
本革のレザーベルト
革は、天然素材。その魅力はまず、他の素材では得られない質感だ。
艶やかな色、ナチュラルであたたかみのある風合い、そしカラダに馴染む着心地。使い込むことで深みが増す経年変化を楽しみながら、世界にひとつだけのオリジナルを「育てる」喜びがある。
それに加えて、「コードバン」の重厚な美しさ、生後6か月以内の仔牛の皮をなめした「カーフ」のきめ細やかな表情、クロコダイルに代表されるエキゾチックレザーがまとう唯一無二の存在感......素材によって異なる多様な個性も天然素材ならではだ。
そういったファッション性だけでなく、機能性の高さもいわずもがな。革は「呼吸する素材」と言われるほど吸湿性と放湿性に優れているので、多湿な日本の暮らしに適しており、耐久性、堅牢性が高いので定期的に手入れをすれば長年愛用することもできる。特に細部にまで技巧を凝らした日本のハイクオリティな製品は、世界中で「ジャパンレザー」として高く評価されている。
今回フォーカスするベルトはカラダの中心に位置し、"コーディネートの顔"といっても過言ではなく、何気なく印象をランクアップさせてくれるアイテムだ。特にレザーベルトは、フォーマルからドレス、カジュアルまでスタイルを選ばず、カラダに心地良くフィットしながら、着こなしに上品さや華やかさを加えてくれる。
普段は無意識に選びがちだが、もっとも身近に人生を共にするアクセサリーだからこそ、こだわって選びたい。
ベルト専門工房でカーブベルトの
オーダーメイドを体験
「レザーベルトの中でも、カーブベルトは一度使うと『他はもう使えない』とおっしゃるリピーターのお客様が圧倒的に多いです」と教えてくれたのは、浅草のベルト工房「テンクス」代表、上田哲宏さん。
同社は、かつて北千住で60年以上、紳士用ベルト中心の皮革製品を製造・販売してきた企業のDNAを受け継ぐ、ベルト専門の職人集団だ。その高い技術力で、大手デパートや紳士服チェーンの受注生産をはじめ、誰もが知るアパレルブランドのベルト製造なども請け負っている。
「カーブベルト」とは、その名の通り曲線を描いたシルエットのベルトのこと。ウエストのくびれを美しくみせるためのレディースのスタイルだったそれを、業界に先駆けてメンズに取り入れた技術を継承するテンクスは、ハイクオリティな製品を身近な価格で提供している数少ないメーカーだ。
カーブベルトの全景
「皆さんご存じの通り、一般的なパンツのフォルムは前が下がって後ろが上がっています。一般的なストレートのベルトは徐々に形が変化していきますが、カーブベルトは最初からその曲線に合わせているので締め心地がよく、さらにオーダーメイドで仕立てることでさらにぴったりフィットします」と同社 営業企画部長の本多聡さん。
テンクスでは、基本的に個人のオーダーメイドは受けていないが、特別に数量限定でオーダー可能とのことで体験させていただいたので、その流れを紹介しよう。体験者は、都内の広告代理店で勤務する30代のビジネスマン・Sさん。
2022年にテンクスを創業した上田哲宏さん(左)と本多聡さん(右)。
テンクスは独自ルートで仕入れているので、コードバンのような貴重な素材が入ることも多いとか
①各パーツの素材・デザインなどの相談
サンプルを見ながら以下の要素を決める
■表革:5種類
(コードバン/スムースツヤあり・マット・素揚げ/マルシボ型押し)
※裏革は、スムースの黒かダークブラウンを表革に合わせてオーダー
■ベルト幅:3種類
(30mm/32mm/35mm)
■バックル:15種類
(30mm/33mm/35mmの3種類×5デザイン)
■剣先:3種類
(ハート型/フェザー型/インポート型)
※ベルト穴は最も美しいバランスとされている5つ、穴の形はベルトを傷めない大きめの小判型でオーダー。別料金でイニシャル刻印も可
「たとえばバックルのデザインだけでもボリューム感や表情が変わってくるので、使用されるシーンや好みを教えていただくだけで大丈夫です」(本多さん)
専門知識がなくても、好みを伝えればプロが最適な一本に導いてくれるので安心だ。
②計測
普段使用しているベルトで計測する
「パンツは規格により股上のサイズに違いがあるため、サイズ計測をする場合、いま着用されているベルト本体をお借りして測らせていただいております」(上田さん)
そのあとは約1か月半、仕上がりを待つのみ※。オーダーメイドと聞くとかまえてしまうが、これなら誰でも気軽にこだわりのベルトオーダーが楽しめそうだ。
※依頼の色やサイズによっては、素材調達のため、期間延長が必要な場合があります。
職人技術で生み出す
"世界にひとつ"という価値
一般的にレザーベルトは裁断や縫製など分業で、それぞれの職人が請け負っていたが、今は職人の高齢化や後継者問題など他業界同様の問題を抱えている。そうしたなか、裁断や縫製を分業で行う旧来の生産システムが機能しない状況が生じ始めている。そうした課題を解消するため、テンクスでは職人一人一人が一貫生産できる体制を構築している。その製造現場を取材させていただいた。
3人の職人が手仕事で月産2000本前後のベルトを作る。
左:一般のストレートベルトは、金型を使い複数枚重ねて裁断する。一方カーブベルトは、職人が一本一本丁寧に手で裁断している。大量生産品の多くは合成皮革やプラスチックなどの化学的素材が芯材として使われるが、テンクスは芯にも"本物"の革にこだわる。 右:昭和の機械が活躍する。
一般のストレートベルトは、金型を使い複数枚重ねて裁断する。一方カーブベルトは、職人が一本一本丁寧に手で裁断している。大量生産品の多くは合成皮革やプラスチックなどの化学的素材が芯材として使われるが、テンクスは芯にも"本物"の革にこだわる。
昭和の機械が活躍する。
左:一糸乱れぬミシン縫製。 右:「稔(ねん)引き」することにより上品な仕立て上がりにこだわっている。
一糸乱れぬミシン縫製。
「稔(ねん)引き」することにより上品な仕立て上がりにこだわっている。
今回オーダーメイドしたレザーベルトは、いわゆる「フランス仕立て」と呼ばれる縫製方法。それは表、裏、芯の3種類の革を使用し、裏の革で芯の革を包み込み上から表の革を貼り合わせることで強度が増すという。
高級な製品で採用されているその職人技は、目の当たりにして驚いた。
まず、表、芯、裏の革を裁断し、貼り合わせる前に表の革の「コバ」とよばれる端の部分を手作業で漉く。その際、曲線を描いている革の端から数ミリを、流れるように一瞬で均一に薄くしていく作業は見惚れてしまうほどなめらかだが、ベテランの職人でも難しい技術だとか。
さらに貼り合わせた後、ローラーで圧着し、ミシンで縫製する。オーダーメイドなので一つひとつ異なる形に合わせて正確に縫い合わせていく姿には見入ってしまう。その後、浮き上がった部分をなめらかにととのえる「稔引き」をして、バックルとループを付け、最後に艶出しをして完成する。
「機械を使っていますが、核となる部分はすべて熟練職人の手作業です。今このクオリティで一貫生産している工房は少なくなっているので、こだわり続けていきたいですし、ひとりでも多くの人にオーダーメイドでつくるカーブベルトの魅力を伝えていきたいですね」(上田さん)
ベルトのイメージを変える
フィット感と高級感
重厚感漂うラグジュアリーな佇まいは、コードバンならでは。
ベルト穴の内側もしっかり塗装するなど細部までこだわりが感じられる作りになっている。
後日、仕上がったレザーベルトを試着して、Sさんが目を見開いた。
「今まで使っていたベルトとは装着感が違いますね!緻密な繊維網が特徴のコードバン、ガチガチに固いイメージでしたが、いきなり最初から快適にフィットするのでイメージが変わりました。締めつけられるストレスはないのに、腰の骨盤周辺を中心にしっかり支えられていて、既に何年も使っているみたいに馴染んでいます」
その高級感を維持しエイジングを楽しみながら、長く使うケア方法を本多さんに聞いた。
「長く愛用されたい場合は、まず毎日ではなく、なるべく間隔を空けたローテーションで使ってください。使った後、パンツのベルトループにつけたままで置きっぱなしの人がいますが、それでは湿気がとれません。陽の当たらない場所でハンガーなど吊して保管するのが理想ですね。さらに、保湿クリームを月に1、2回軽く塗って丁寧に使用すれば、10年以上は持ちますよ」
人生とともに変化していく上質な革を贅沢に使用し、卓越した職人技術で生み出される世界で唯一つのレザーアイテム――。その特別感を得るために、オーダーメイドに挑戦してみてはいかがだろうか。
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