ユーザー視点に立ち、オリジナリティを追求
Hozumi KABAN(兵庫)
1お客さんとの対話からアイデアが生まれる
「革靴の貿易会社でアルバイトをしていたとき、事務所のおばちゃんが『印鑑ケースがボロボロやから、買うてもらわんとあかんな』って言っていて、なぜか『そんなら俺がつくるわ!』と言ったんです。余りもののサンプルの革を使って印鑑ケースをつくったら喜んでくれたけど、今思うと、タダだったからかもなあ」
Hozumi KABANの保住健典さんが革でものづくりを始めた経緯は、クスリと笑ってしまうようなユーモアに満ちている。革の魅力にハマった保住さんはその後、制作した革小物をマルシェなどで販売。1年後には工房を構え、現在はヌメ革を使った「Natuca(ナチュカ)」のメガネホルダーがヒットしている。
「僕は人一倍接客を大事にしていて、お客さんととことん付き合うスタンス。そうすることで、具体的なアイデアをいただくこともあります」
ただ工房にこもってものづくりをするだけではなく、催事などに出店する際はお客さんと対話して世の中の空気感を掴むという保住さん。実際に、丁寧な接客が奏功して生まれた製品がある。
292歳のおばあさんの声で斬新なカバンが誕生
その名前は、「La Mauvaise Facon(ラ ムベザ ファソン)」。アイデアが浮かんだのは、百貨店の催事で92歳の年配の女性と会話を交わしている最中だった。「軽くて揺れず、肩紐は太く肩に食い込まず、それでいてファスナーのカバンが欲しい」。保住さんはオーダーに応えるべく馬革を使ってカバンを制作した。しかし、女性の反応は「ファスナーが開けにくい」というものだった。
「よくよく観察したら、その方はカバンを右側に持つタイプでした。日本では、高度経済成長期にカバンを大量生産していた頃、ファスナーを表から見て右から左に開けるものと決めた経緯があります。なので、その向きだと、おばあさんには開けにくかったんです。『このおばあさんのような方は全国にいるかも』という気づきから、オーダーでファスナーの向きを変えられるようにしました」
ちなみに「ラ ムベザ ファソン」とは、フランス語で「左右」という意味。ダブルジップでも良かったが、「それだとありがちで面白くない」と、独自の手法を採用した。
このカバンに欠かせないのが、アークレザージャパンの革だ。
3JLPタグで売り場の反応が大きく変わる
「アークレザージャパンの寺越博之さんと初めてお会いしたのは、百貨店の催事でした。同世代の寺越さんは、革のことを話し始めたら止まらない熱い人で、グイグイ引き込まれましたね。その後、『ムスタング』という革に出会ったのですが、型押ししてもしなやかで、折り曲げてもふわっとした丸みがあってやわらかく、レディースラインには最適だと思いました」
しかし、ふたりは「『ムスタング』はこれで完成ではない」と言い合っている。保住さんは、アークレザージャパンの大型スクリーンで革にプリントできるようになったらムスタングが完成すると考えている。また、キズを前面に押し出した「スクラッチーズ」というシリーズの革も試作中で、この革で製品をつくるのも楽しみだという。
そして保住さんは、これらのカバンを売る際にジャパン・レザー・プライド・タグが役立っていると話す。
「工房を構えて数年の僕にしたら、日本でつくっている革という証をもらえるのはありがたいこと。売り場での反応もおのずと変わりますからね」