使う人の一生に寄り添う天然素材ベースの箱型鞄
マスミ鞄嚢株式会社(兵庫県豊岡市)
古き良き技術や道具を捨てず、丁寧なものづくりに邁進
鞄の産地として知られる兵庫県豊岡市。マスミ鞄嚢 株式会社は、この街で1916年に創業した老舗の鞄メーカーだ。
現在に至るまで、一生使える鞄づくりをコンセプトに、昔ながらの技術を活かしてものづくりに邁進してきた。そのひとつが鞄の木枠を製作する木工である。代表取締役社長の植村賢仁さんが説明する。
箱型鞄をつくる際は、この木枠に本革を縫い付けていく。そこで使用するのが、国内ではめずらしい年代もののミシンだ。
もちろん、ミシンのみではなく、製品や部位によっては手縫いをすることも。研ぎ澄まされたクラフトマンシップによって完成した鞄は、一生ものの輝きを放っている。
「機械も技術も、多くの人が捨ててしまった古いものを意識的に残しているんです。時代に逆行していますが、この方法が当社の個性であり、付加価値につながっていると信じています」
現在は、アタッシェケース、トラベルバッグ、ダレスバッグから小物類まで、幅広いラインナップを揃える。植村さんは、革製品の魅力を次のように語る。
「革製品はきちんと手入れをすれば一生使えます。箱型鞄に関しては、使っている革も木も呼吸をする天然素材なので、僕たちは最高の組み合わせでものづくりをしていると言えるでしょう」
豊岡鞄のブランド化が自社の発展につながる
豊岡では、ヤナギ科のコリヤナギを原料とする柳行李を端緒に、明治時代には行李鞄、大正末期にはファイバー鞄と、時流に合わせたさまざまな鞄を製造。高度経済成長期には海外への輸出が盛んになり、鞄生産の全国シェアのトップを誇るようになる。
しかし、バブル崩壊後、鞄の生産拠点は海外に移行し、市内における生産量は右肩下がりに。長く苦境に立たされたが、その打開策として地域ブランディングへの道を模索。2006年、兵庫県鞄工業組合の登録商標である「豊岡鞄」が兵庫県で第一号の地域ブランドとして認定され、厳格な審査をクリアした高品質の鞄のみが全国流通するようになった。
「活気のない地域に人が来ないことを前提とすると、産地が元気でなければ自社も元気になりません。1300年続いてきた産業の灯を僕たちの時代で消さないように、できることはしておきたいという思いでここまで来ました。今後は少しずつ身を引いていく予定なので、柔軟な発想を持つ若手が中心となって豊岡鞄を盛り上げてほしいですね」