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日本の皮革製品メーカーMaker

野球をより身近に感じられるグラブを開発
丸和株式会社(大阪府大阪市)

競技用から観賞用まで、幅広いラインナップが魅力

野球用グラブの製造・販売を行う丸和株式会社。1949年に野球用グラブ・ミットの製造を始めたのち、1980年に材料販売部門を分離して株式会社を設立。プロ選手用を含む国内大手スポーツメーカーのグラブをOEM生産しつつ、2019年には自社ブランド「D-Quest(ディークエスト)」を立ち上げ、さまざまなグラブを世に送り出している。

代表取締役社長の丸橋暁さん(右)と、製品開発・広報を担当する生江太一さん。

「D-Questを立ち上げたのは、若手のモチベーション向上に寄与したかったからです。販売店さんやユーザーさんとコミュニケーションをとり、そこで生まれたアイデアを活かせる場ができれば、楽しく刺激的な仕事ができ、皆が幸せになれるのではないかと考えました」

そう話すのは、代表取締役社長の丸橋暁さん(以下、丸橋社長)。若手のひとりであり、製品開発・広報を担当する生江太一さんも大きく頷き、「『こんなグラブがあったらいいな』『こうできたら面白いのに』というアイデアを実現できるようになりました」と、笑顔を見せる。

現在は「野球はもっと、面白い。」をコンセプトに、競技用から観賞用まで多種多様なグラブ・ミットをラインナップ。また、30種以上の型をベースに形状やカラーを選べるオーダーメイドにも対応している。

インパクト大な「掴めるドデカグラブ」(左下)をはじめ、さまざまなグラブを開発。

競技用グラブでは、柔軟性のあるネオプレーン素材を使用してバンド部分のフィット感と開閉のしやすさを向上させた「D-Flex band(ディーフレックスバンド)」や、バンド部分から人差し指を出したときに邪魔になる背面の切れ目のステッチをなくしたシームレス構造など、新たに導入した機能・仕様が好評だ。

一方で、野球観戦時に客席に飛んできたボールをキャッチしやすい通常の1.7倍サイズの「掴めるドデカグラブ」や、革に着物生地を貼り合わせた和モダンな「Kimonoグラブ」といったユニークなグラブも開発している。

作業の効率化をはかるために導入した自動裁断機。正確に革を裁断する。

これらのアイデアを支えるのが、長年のOEM生産で培った確かな技術力だ。

製造においては、ひとりの職人がすべての工程を賄えるスキルを身につけているため、完成形をイメージしてグラブを製造することが可能。手を入れた際の気持ちよさを想像し、一つひとつの工程を確かめながら作業していく。丸橋社長によると、「パーツごとに作業をマニュアル化した分業体制とは異なり、味のあるグラブに仕上がります」。また、自動裁断機のような最新機器を駆使し、効率化もはかっている。

「僕はグラブに手を入れることを『差す』というのですが、差したときに違和感がなく、ストレスなく使えるのが理想的なグラブやと思います。ちなみに、観賞用のグラブもベースとなる機能性は付与しているんです」

丸橋社長の言葉どおり、ユーザーのメリットをとことん追求するのがD-Questのスタイルといえそうだ。

高品質の革素材を使い、グラブの可能性を拡張

グラブの素材として重要なのが革の存在だ。国内のタンナー数社と取引している同社だが、今回は兵庫県たつの市に工場を構える株式会社 寺田製革所(以下、寺田製革所)の革を使用したグラブに触れたい。

D-Questには、各ポジション専用のグラブをラインナップしている「D9」というシリーズがある。たとえば投手用なら、硬めの革を使用して握りやすくするほか、バッターに球種がばれないよう人差し指カバーを付ける、ピッチングの際にギュッと握りやすいよう硬めの芯材を使用するといった工夫がなされている。

生江さんの持つグラブが、TWVを使用している「D9 投手用」だ。

このD9シリーズに使われているのが、寺田製革所の「TWV(Terada World Victory)」という革だ。

「TWVはしっかりした風合いで、薄く漉いても張りを保ってくれます。ただ硬いだけではなく、しっとり感があってこなれてくるので、グラブづくりにとても適していますね。もちろん、TWVを使ったグラブはプレイヤーも使いやすいと思います」と、生江さん。丸橋社長も、「寺田製革所さんのなめしの技術があってこその革です」と、言葉を添える。

プレミアムストーンが映える「キラデコグラブ」。有名演歌歌手が始球式に使用したことも。

ほかにTWVを使用している例として、プレミアムストーンの輝きがまばゆい「キラデコグラブ」がある。こちらはプレミアムストーンの糊付けがしやすくなるよう、外部の委託工場でヌバック加工を施している。ちなみにこのグラブ、野球経験のない事務職の女性社員のアイデアから誕生したという。

職人の大半が野球経験者。どうすれば使いやすくなるかを熟考してグラブを製造している。

新製品の開発にあたっては皆でアイデアを出し、競技用グラブであれば野球経験者の社員がサンプルを試してブラッシュアップする。少子化で競技人口が減っている中、野球をより身近に感じてもらうために、まさに全員野球でグラブの可能性を拡張し続けているといえるだろう。

「野球のグラブは非常に洗練されたフォルムで、先人はよくこのベースをつくったと思います。我々はファクトリーブランドとして、お客さんの意見を取り入れつつ、失敗を恐れずにチャレンジを続けていきたいですね」

丸橋社長がそういうと、生江さんも「新しい機能を考え続け、進化を止めずにグラブを探求していきたいです」と、言葉に力を込める。

D-Questの「Quest」は、まさしく探求を意味する。理想のグラブを探し求める旅は、まだ始まったばかりだ。

2024/10/30 公開
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