日本人女性の足に合ったレディースシューズを生産
株式会社 東京靴研(東京都台東区)
数多くの人の足のサイズを測定して木型を製作
革の街、台東区に工房を構える株式会社 東京靴研。1974年の創業以来、レディースシューズのOEMを中心としてきたが、近年はオリジナルブランド「KUTSUNE(クツネ)」にも力を入れている。
ブランドのコンセプトは「Local, Simp:Re, Original(ローカル、シンプル、オリジナル)」。
独自性のあるシンプルで履き心地の良い靴を追求しつつ、地域に根ざして皮革産業を盛り上げていきたいという思いを込めている。「Simp:Re」をシンプルと読ませ、「Re」の文字でリサイクルやリユースへの配慮を表現している。
そう話すのは、営業から製造まで担当する恒次弘幸さん。恒次さんは、ジーンズメーカー勤務を経て、2012年に父が経営する同社に入社。2013年に自社ブランドを始動し、2017年に「クツネ」という名称でリブランディングした。響きの美しいブランド名は、靴(クツ)と恒次の恒(ツネ)を組み合わせている。
クツネの靴づくりには3つのポイントがある。ひとつは、レディースシューズにはめずらしいビブラムソールの採用だ。
「ビブラムソールは登山靴に使われることが多いアウトソールで、グリップ力と軽さが特長です。雨の日でも路面で滑らず、時には走れるほどで、その魅力を体感していただいたお客様からの反応はおおむね好評です」
次にあげるのが、日本人女性の足に合わせた靴づくりだ。同社では、数多くの人の足のサイズを測定してつくったオリジナルの木型を使用している。
抜群の履き心地を多くの人に知ってもらうために、ポップアップイベントや催事に積極的に出展。また、2022年にオープンしたJCC(Japan Creator’s Collection=同社が参加するクリエイター集団)のショップでもクツネの靴を用意し、試着する場を提供している。
最後のポイントとなるのが、一人ひとりと向き合う丁寧な顧客対応だ。
「木型に自信はありますが、クツネの靴で万人をカバーできるわけではなく、『つま先が当たる』『幅がきつい』といった方がいることは確かです。その場合、当社では該当する部分の革の加工や調整を行って対応しています。また、アフターケアにも力を入れています」
「あったらいいな」という想像から新アイテムが生まれる
レディースシューズをメインにしている同社だが、近年はメンズシューズの開発に着手。その第一号となったのが「モンクシューズ」だ。商品名どおり、僧侶向けにつくられた靴である。
「実際にお坊さんに話を聞くと、檀家回りをするので脱ぎ履きしやすい靴がいい、自動車の運転に適した靴が欲しい、雨の日でも履けるものがいいなど、細かい要望がたくさん出てきまして。そういった気持ちを汲んで開発を始めました」
「ビブラムソールを採用しているのはレディースシューズと同様です。そのほかに、長時間履いていても疲れにくくするために中底に高反発スポンジを敷く、着脱しやすいようにかかと部分にゴムを取り付けるといった工夫をしています。また、ライニング(内側)には透湿性の高いピッグスキンを使用し、通気性を確保しています。法衣にマッチするデザインについても、ひとまずはベストな答えが出せたと思いますね」
恒次さんの生み出すプロダクトは、「あったらいいな」というイマジネーションを起点につくられていく。その範囲は、靴だけではなく革雑貨にまで広がっている。中でも人気を博しているのがスマートウォレットだ。
ポケットに収納できるかさばらないサイズ感でありながら、最大で紙幣15枚、カード5枚を収納可能で、小銭も十分に入る。スマートフォンと補完し合う通称「スマウォ」は、時代のニーズを満たす財布といえるだろう。
今後の展望を伺うと、「財布だけではなく、靴づくりにおいても時代性を考慮した工夫が必要になりそうです」と、恒次さん。
「日本人の体形の変化とともに、若い世代の足形も少しずつ変わってきているように感じます。大抵の方の足であれば当社の木型でカバーできるのですが、足に幅も厚みもないという方だと難しい。絶対数こそ多くはありませんが、そういった方たちのためにできることを考えていく時期に来ているように思います」
「小さい頃から『革はいいものだ』と言われて育ってきたこともあり、本革、とくに品質の安定しているジャパンレザーの魅力は十分に理解しているつもりです。靴の素材として加工しやすく、長く履くことで足になじんでいく革を、これからも使い続けていきたいですね」