依頼者の声に耳を傾け、求められる革を一枚からつくる
株式会社 オールマイティ(兵庫県姫路市)

オールマイティが開発したカーフレザー「渋山水」。なめらかな手触りが魅力。
柔軟な対応力が評価され全国から注文が殺到

木製とステンレス製のドラムは、用途によって使い分ける。
「おかげさまで、小ロットから幅広いオーダーに対応していることが広く知られるようになり、『本当にオールマイティですね』といった声をかけていただく機会が増えました」

30代前半の若さながら、株式会社 オールマイティを牽引する水瀬社長。
「タンナーの世界では、10年で一人前とよく言われます。僕は今年、オールマイティで働き始めて11年目になるので、ようやく父に認められたのかもしれません。まだまだ父に適わない部分はありますが、知識、技術、柔軟な対応力と、10年以上働いたことで、ある程度の自信がついたのは事実です」

手吹きのスプレー塗装で、革をオーダーどおりに染める。
「父のやり方に共感しているので、その意思を引き継ぎたいと強く思っています。どんな注文でもイエスと応じたいし、風合いや色味についてお客様と綿密な打ち合わせをして、期待に応える革づくりをしていきたいです。納期までのスピード感にも自信があります」と、力強く話す。

外気温や湿度に左右されず、一定の室温で革を乾かすことができる乾燥室。
「革製品は経年変化による風合いの変化が楽しめ、丁寧にケアすれば、何世代にもわたって使うことができます。その土台となる革づくりをするうえでは、100年使われる可能性を考えつつ、お客さんの理想に近づけるべく努めています」
命を無駄にせず有効活用するのがタンナーの本分

ステンレスドラムは小ロットのサンプルづくりに最適。取材日はカメの皮をなめしていた。
「カーフはきめが細かくデリケート。使用する水の量や温度、薬品の分量なども含め、徹底的に研究したレシピでなめしています。暑くても寒くても、ドラムの中を常に一定の状態にしなければ、安定した革の供給ができなくなります」

日本エコレザー基準のエキストラ認証を取得した「姫山水」の検品。
「軽さとやわらかさを追求したカーフレザーで、肌触りも抜群です。ちなみに姫山水は、日本エコレザー基準(JES=Japan Eco leather Standard)において、もっとも審査の厳格なエキストラ認証を取得しています」
このように、エコレザーの製造も行っている同社。近年は、時流に合わせた環境対策をさらに推し進めている。
「世界的な流れとして、SDGsやサステナブルに紐づく問題がよりシビアになってきています。その中で行っている取り組みのひとつが、ジビエレザーの製造です。全国の自治体や猟師から依頼を受け、害獣として駆除されたイノシシ、クマ、鹿の皮をなめしています。命を無駄にせず有効活用することはタンナーの本分なので、今後もジビエレザーの製造は継続していきたいです」

鹿革のキズを活かし、陶器の修復方法である金継ぎに着想を得た手法でアレンジ。独創性が光る。
「彼女は事前にタンナーの仕事について詳しく調べるなど、驚くほどの熱量を持っています。性別に捉われず、自分なりの感性を活かして革づくりに打ち込んでほしいですね」
世代交代によって吹く新たな風が、これまでにない革を生み出す日を楽しみに待ちたい。