巧みな加工技術でジャパニーズレザーの可能性を追求
墨田革漉工業株式会社(東京都墨田区)
世界最先端の加工法を日本風にアレンジ
革の加工に特化したタンナー、墨田革漉工業株式会社。同社の成り立ちに深く関わっているのが、革のカンナ漉き名人として名を馳せた佐藤勝次郎氏。勝次郎氏は、大正初期にヨーロッパから革漉き機を輸入し、独学で革漉きの技術を体得。その後、機械による革漉きを日本に広く知らしめたと言われている。
革漉きとは、なめした革を用途に沿って二枚にスライスすること。革は天然素材ゆえ、一枚ごとに硬さや厚みが異なる。全体を均一に漉くためには、刃の回転するスピードを調整するなど、熟練の職人による技術と経験値が必須。ちなみに同社では、0.3ミリ程度までスライスすることができる。
「うちがずっと続けてきたのは、世界最先端の加工を日本風にアレンジして、メイドインジャパンの革にすること。うちが扱っているような機械の大半は日本でつくられていないから、ヨーロッパから輸入しているものがほとんどだけど、熟練の職人がいるうちの技術で加工することに意味があると思うんだ」
もちろん、ただただ流行を追うわけではない。これまで蓄積してきた繊細な技術が加味されることで、元治さんの話す「メイドインジャパンの革」が完成する。
ファッション素材としての革の価値を高める
一方で、革漉き以外の加工は、東京・墨田区の地場産業でもあるピッグスキンの用途拡大を目的としてその幅を広げてきた。たゆまぬ研究開発と設備の拡充により、靴の裏革のみならず、ファッション素材としての可能性を一段と高めている。
「温度、圧、時間。型押しをするときには、この三つの条件をよく考えないといけない。型には浅いものと深いものがあって、高温で押した方がいいものと低温で押した方がいいもがある。その温度を見極め、適切な圧と秒数で型押しをすることが大切なんだ。条件がそろっていないと、革が焦げる、あるいは切れたりすることもあるからね。それと、型押しをした後に染料で陰影をつけるといった仕上げ加工も大切だね」
その一種として注目したいのが、アタッチメントにナイフをつけて革の表面に切り込みを入れるナイフカット。ナイフを革にあてる角度を変えることで、チェック柄にしたりフリンジ(房飾り)をつけたりと、さまざまな表情に加工することができる。国内では同社のみが行える加工法だ。
このほかにも、革を表情豊かに演出する箔・フィルム加工、シワや折り目を立体的に表現するプリーツ加工、写真やイラストなどのデジタルデータを革にプリントするインクジェット加工など、さまざまな加工法に対応。革のポテンシャルを最大限にまで引き出す自在さは、まるで魔法のようにも思える。
長く使える革を、見事な加工によってひときわ輝かせる同社。今後も墨田の地から、革素材の魅力を力強く発信する。