素材から作りまでメイドインジャパン。
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日本のタンナーTanner

巧みな加工技術でジャパニーズレザーの可能性を追求
墨田革漉工業株式会社(東京都墨田区)

活気あふれる工場。職人の中には半世紀在籍しているベテランもいる。

世界最先端の加工法を日本風にアレンジ

革の加工に特化したタンナー、墨田革漉工業株式会社。同社の成り立ちに深く関わっているのが、革のカンナ漉き名人として名を馳せた佐藤勝次郎氏。勝次郎氏は、大正初期にヨーロッパから革漉き機を輸入し、独学で革漉きの技術を体得。その後、機械による革漉きを日本に広く知らしめたと言われている。

革漉きとは、なめした革を用途に沿って二枚にスライスすること。革は天然素材ゆえ、一枚ごとに硬さや厚みが異なる。全体を均一に漉くためには、刃の回転するスピードを調整するなど、熟練の職人による技術と経験値が必須。ちなみに同社では、0.3ミリ程度までスライスすることができる。

革の送り手と受け手が二人一組で行う革漉き作業。こちらはヌメ革。

進取の気性を持つ勝次郎氏のDNAを継承する同社は、この革漉きを主軸に据えつつ、長い歴史の中で少しずつ加工の幅を広げてきた。その根本にある理念について、勝次郎氏を曾祖父に持つ代表取締役会長の佐藤元治さんは、次のように語る。

「うちがずっと続けてきたのは、世界最先端の加工を日本風にアレンジして、メイドインジャパンの革にすること。うちが扱っているような機械の大半は日本でつくられていないから、ヨーロッパから輸入しているものがほとんどだけど、熟練の職人がいるうちの技術で加工することに意味があると思うんだ」

同社ならではの技術で、メイドインジャパンの革に。写真はフィルム貼り。

世界最先端の技術を知るためには、努力を惜しまない。国際的な皮革見本市「リネアペレ」や革用工作機械を展示する「シマック・タンニングテック」に足を運び、常に最新の情報を収集するよう努めている。このような国際見本市には、国内の問屋やメーカーも多く訪れており、流行の加工ができないかと相談を持ち掛けられることも少なくない。その際には、見聞の広さが大いに役立つ。

もちろん、ただただ流行を追うわけではない。これまで蓄積してきた繊細な技術が加味されることで、元治さんの話す「メイドインジャパンの革」が完成する。

ファッション素材としての革の価値を高める

一方で、革漉き以外の加工は、東京・墨田区の地場産業でもあるピッグスキンの用途拡大を目的としてその幅を広げてきた。たゆまぬ研究開発と設備の拡充により、靴の裏革のみならず、ファッション素材としての可能性を一段と高めている。

革に独特の模様をつける型押し。職人の経験値が革の価値を高める。

その革の加工法のひとつに型押しがある。型押しとは、型板と高圧プレスによって、革の銀面に凹凸で模様をつけること。型の種類は約300種あり、たとえば、ピッグスキンをクロコダイルなどの柄にすることもできる。

「温度、圧、時間。型押しをするときには、この三つの条件をよく考えないといけない。型には浅いものと深いものがあって、高温で押した方がいいものと低温で押した方がいいもがある。その温度を見極め、適切な圧と秒数で型押しをすることが大切なんだ。条件がそろっていないと、革が焦げる、あるいは切れたりすることもあるからね。それと、型押しをした後に染料で陰影をつけるといった仕上げ加工も大切だね」

左上と右下がナイフカット、中央がパンチング。右側の革は箔貼りも組み合わせている。

また、抜き型を使用して革に穴を開け、多彩な模様をつけるパンチング加工も得意とする。

その一種として注目したいのが、アタッチメントにナイフをつけて革の表面に切り込みを入れるナイフカット。ナイフを革にあてる角度を変えることで、チェック柄にしたりフリンジ(房飾り)をつけたりと、さまざまな表情に加工することができる。国内では同社のみが行える加工法だ。

このほかにも、革を表情豊かに演出する箔・フィルム加工、シワや折り目を立体的に表現するプリーツ加工、写真やイラストなどのデジタルデータを革にプリントするインクジェット加工など、さまざまな加工法に対応。革のポテンシャルを最大限にまで引き出す自在さは、まるで魔法のようにも思える。

代表取締役会長の佐藤元治さん。新たな加工法の研究に余念がない。

「加工をすることで、革は無限に表情を変えていく。それと、本革製品はとても長く使えるものなので、そのことをもっとたくさんの人に知ってほしいね」

長く使える革を、見事な加工によってひときわ輝かせる同社。今後も墨田の地から、革素材の魅力を力強く発信する。
2023/7/31 公開
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