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日本のタンナーTanner

独創性に富むファッション素材用の皮革を供給
株式会社 墨田キール(東京都墨田区)

ニーズに応じて多種多様な革の加工に対応

フィルム転写や箔貼りなど、バラエティー豊かな革を手掛ける。

日本の四大皮革産地のひとつである東京・墨田区。この地域に根を下ろし、皮革産業を支え続けているのが、株式会社 墨田キール(以下、墨田キール)だ。1959年の創業から現在に至るまで、ピッグスキンをメインとする良質な本革を市場に供給してきた。そんな同社の歴史を65年以上にわたって見続けてきたのが、2代目の長谷川憲司さん(以下、長谷川社長)。10代の頃から革に触れてきたプロフェッショナルだ。

中学生の頃から工場に出入りし、革に触れていた長谷川社長。

「当時は、長男が家業を継ぐのが当たり前の時代。小さい頃から、何の疑いもなく革の仕事をするだろうと思っていました。中学生になってからは、小遣い欲しさに工場でアルバイトをして。今考えると、親父にうまく使われていたね(笑)」

長谷川社長は大学卒業後、父のもとで働くようになる。日々の業務で技術を磨き、2003年に代替わりで代表取締役に就いた。製造している革については、「時代とともに少しずつ変わっていきました」。その歴史を要約すると、次のようになる。

牛革の染色から始まった同社は、時代の変遷とともに徐々にピッグスキンへとシフト。鞄用、袋物用、ベルト用と、さまざまな用途の革を製造してきた。90年代に入ると、ファッション性の高い革へのニーズが高まり、さまざまな加工機器を導入。以後、現在に至るまで、フィルム貼り、プリントロール、型押し、箔貼りなどを施した革を製造。近年は、婦人靴用や小物用の革を主軸にしている。

ベテランだけではなく、若手職人たちの存在も墨田キールに欠かせない。

「革をつくるうえで大切にしているのは、個体差がある素材を扱う中で、いかに均一に仕上げるかってこと。もちろん、ロットによるブレは多少出てしまうけれど、それを最小限に抑えて、安定した品質の革をつくろうと努力しています。まあ、あまり偉そうなことは言えないけどね」

高品質の革をつくるために欠かせないのが技術を持つ職人たちの存在だ。同社では、一人ひとりがどんな工程でも対応できる技術力を持ち、ベテランと若手が力を合わせて革づくりに取り組んでいる。

「支流」の仕事として舞台衣装用の革づくりにも注力

さまざまな技術を用いて舞台衣装用の革を製造。

長谷川社長は、婦人靴用と小物用の革づくりを「本流」、そこに当てはまらない仕事を「支流」と位置付けている。支流の仕事に当てはまるのが、著名な劇団の舞台やミュージシャンのライブ、あるいはテレビ番組・CMで使われる衣装用の革の制作だ。国民的歌番組に出演する歌手に靴用の革をつくったこともあれば、アリーナツアーをするほど人気のあるアーティストの舞台衣装用の革を手掛けることもある。

多くのクリエイターに慕われているベテラン職人。

「衣装用の革の制作は、僕の楽しみになっている部分が大きいかな。依頼に来る人たちは、うちが小ロットで特殊な革をつくっているという噂をどこかで聞きつけて来るみたいです。1枚、2枚の注文だと、純粋な商売として考えたら『うーん』となってしまうけれど、話のネタにはなるし、何より、僕自身がやりがいを感じています」

小ロットという観点でいえば、長谷川社長は舞台衣装の制作のみならず、個人のクリエイターやデザイナーからの依頼も受け付けている。たとえば、墨田区と隣接する台東区のクリエイター創業支援施設「台東デザイナーズビレッジ」と連携し、クリエイターやデザイナーの相談を受け入れている。この懐の深さが、墨田キールの魅力の一端と言えそうだ。

そんなクリエイター気質の長谷川社長だが、革づくりに向き合う際には、常にある気持ちを抱いているという。

「問屋さんを大切にしつつ、若手の応援をしていきたい」と、長谷川社長。

「いつもどこかで、『世の中にない革をつくってやろう』と思っている節があります。世の中の流れを見て、それに沿ったトレンドの革をつくるのも商売として大事だけど、一方で、フロンティア、パイオニアになりたいという気持ちがあるんだよね。最近だったら、インバウンド用のお土産に使えるような和テイストの革をつくってみたいなと思ったりもしています」

長谷川社長の発想力によって生み出され、アパレル業界はもちろん、エンタメ業界でも使われている墨田キールの革。もしかすると、日々の暮らしの中で、知らず知らずのうちに目にしているかもしれない。
2024/10/30 公開
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