飽くなき探究心で本革の価値を高める「革の研究所」
有限会社 T.M.Y’s(東京都墨田区)

独自の染色・加工により、さまざまな色や柄の本革を生み出せる。
革を美しく仕上げる染色・加工のプロフェッショナル

シープスエードのサンプルは200色以上。発色が良く、手触りも上質だ。
メインで製造しているのはシープスエードで、常時200色以上の在庫を保有。発色の良さだけではなく、きめ細やかでなめらかなタッチ感も魅力だ。銀付き革も製造しており、ソフトでふっくらとした風合いのラムやゴ―トなども取り扱っている。
オーダーに沿った染色・加工を得意とし、とくにフィルム加工や箔貼りには定評がある。この加工法では、塗装とは異なる美しさを革に付加することができる。

フィルムを革に圧着させる作業は、相応の経験と技術が必要。
そう話すのは、代表取締役社長の渡邊守夫さん。革の話をするのがじつに楽しそうで、「天然素材の革に同じものはひとつとしてありません。それゆえ、同一の染色や加工をしても、一枚一枚にわずかな違いが生じます。今も試行錯誤の繰り返しですが、そうやって革と向き合うことにやりがいを感じています」と、目を輝かせる。
好奇心旺盛な渡邊さんは、毎年のようにヨーロッパで開催される国際的な皮革見本市を訪れ、その時々の世界的な流行を学び、革づくりに取り入れてきた。そんな中で、自社が製造する本革も含めたジャパンレザーの魅力に改めて気づいたという。

職人たちも研究熱心。真剣な表情で革と対峙する。
そう語りながらも、「あくまで個人的な想いですが、ヨーロッパの人たちの革に対する感覚が羨ましくなる時もあります」と、正直な気持ちを口にする渡邊さん。
近年はタンニンなめし革など、ナチュラルな風合いの本革づくりを研究している。50年以上のキャリアがありながら、探究心は一向に衰えていない。
工場新設と同時に設備面と対外アピールを強化

新設した工場の1階。おもに染色を行う場となっている。
2020年に完成した新工場では、作業動線を考慮したレイアウトを採用するほか、「いろいろなサンプルづくりを試すのに便利」と話すステンレスのドラムに加え、インクジェットプリンター、レーザー加工機などを導入して設備の充実をはかった。
また、革をより身近に感じてもらうため、多様な革やレザーアイテムを展示したショールームを開設。工場見学の受け入れ(予約制)も積極的に行っている。

革だけではなく、オリジナルのプロダクトも飾られているショールーム。
工場の刷新と同時に、同社の別称を「LEATHER LAB TOKYO」とし、先進的な革づくりをする「東京の革の研究所」として対外的なアピールを強化。また、オンラインショップで革を一枚単位から販売するほか、シューズブランドおよびフォトグラファーとのコラボレーション、子ども向けワークショップの開催など、その取り組みは多岐にわたる。
SDGsの観点でも、世界水準レベルのタンナーになるべく、水と薬剤が関わる環境対策に万全を期している。自社で排水設備を整え、製造工程で使用した水の処理を徹底。「水のまち墨田」の自然環境を守るために水質検査の回数を増やすなど、努力を続けている。

代表取締役社長の渡邊守夫さん。革に対する思い入れは人一倍強い。
数年前に後継者が見つかった渡邊さんは、「会社を受け渡すまで、できることはやっておかないとね」と、笑顔を見せる。若い力が育ちつつある同社の今後に、大きな期待が寄せられる。