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日本のタンナーTanner

子どもにも触り心地の良さが伝わる素上げのソフト革が魅力
有限会社 コンツェリア多田(兵庫県たつの市)

代表取締役社長の小島忠久さん。「素上げのソフト革ならお任せください」

一枚皮のままなめして繊維をまんべんなくほぐす

タイコ場で職人がきびきびと作業をする。

有限会社 コンツェリア多田の創業は1952年。当初は多田幸商店という社名だったが、代替わりするタイミングで有限会社を設立し、有限会社 コンツェリア多田に改名した。ちなみにコンツェリアは、イタリア語でタンナーを意味する。

同社の本革で特に評価が高いのが、素上げのソフト革だ。素上げ革とは、革本来の風合いを残すために、製造工程において塗料や特別な加工を施さない革のこと。同社では、素上げに適している皮として、北米産のステアやキップなどを扱っており、なめしから仕上げまでを一貫して行っている。

やわらかさが伝わってくる素上げのソフト革。

「素上げというのは、人間の化粧で言えばスッピンの状態を指します。特殊な加工を施さずに仕上げるので、革そのものの良し悪しがそのまま出ます。なので、皮の選別はもちろん、なめしの方法が非常に重要になってきます」

そう話すは、代表取締役社長の小島忠久さん。19歳の頃から同社で働き始め、35年以上革づくりに携わってきた大ベテランだ。小島さんは、同社のソフト革の完成度を高めるために、長年にわたって研究を行ってきた。

特に力を入れてきたのが、なめしの方法の確立だ。同社では、なめしの際に半裁(原皮を背割りして二分したもの)ではなく一枚皮(裁断していない状態。丸皮とも呼ぶ)のままドラムでなめしを行っている。その理由について、小島さんは次のように語る。

一枚皮のままなめすことで皮の繊維を余すところなく伸ばす。

「一枚皮のままなめすことで、繊維がまんべんなく伸びてほぐれるんです。ソフト革をつくるには、最適な手法だと思いますね。ただ、繊維をほぐしすぎるとやわらかすぎて締まりのない革になってしまいますから、お客様のオーダーに沿って、どの程度のコシを入れるかを調整することが大切です」

しなやかなやわらかさと適度なコシを両立させる。小島さんの言う「ギリギリの狭間のなめし」が、同社の特長のひとつであることは間違いない。

バタ振りやツヤ出しで革をよりやわらかく加工

バタ振りで革をやわらかくほぐす。

なめしを終えた革は、ドラムを使用した染色・加脂によって、革に染料を定着させると同時に、柔軟性や耐久性を付与する。なめしで繊維をほぐした後だからこそ、革に脂が浸透していく。

その後も、ソフト革をつくるための大切な工程がある。その一つがバタ振りだ。バタ振りとは、専用の機械で革の端をつまみ、上下に振ることで革をさらにやわらかくほぐす工程のこと。バタバタと豪快な音を立てて革に変化を加えていく様子は圧巻だ。

繊細な力加減でフェルトロールをコントロールする。

もう一つはツヤ出しだ。フェルトのロールを回転させることで革の表面を摩擦してツヤ出しをする作業だが、職人が革を手で持ってコントロールする必要がある。小島さんによると「革の部位の違いや繊維構造を理解して作業をする必要があるので、長く経験を積んだ職人でなければこの工程は担当できません」とのこと。

こうした一つひとつの作業を経て、同社ならではの素上げのソフト革が完成する。さらに細かいオーダーがあれば、ディア調(鹿革のような風合い)やオイルタッチなど、さまざまな仕上げにも対応可能だ。

多田さんは自社の革について、「見るだけではなく、触って感じてほしいですね。そうすれば、素上げのソフト革の良さがきっと伝わるはずです」と、確固たる自信を持っている。

中央がディア調レザー、右側と左側がオイルタッチレザー。

「息子が小学1年生の頃、たまたま工場に遊びに来たことがありまして。その時、素上げのソフト革を触って『何て気持ちええんや!』と言ってくれたことが深く印象に残っています。うちの革は、革の知識を持たない子どもにも触ったときの気持ち良さが伝わるんやな、と自信につながりましたし、シンプルにうれしかったですね。今後も、子どもが触ったときに心地良さが伝わる革づくりを続けていきたいと思っています」

先入観のない子どもにも手触りの良さが伝わる素上げのソフト革は、ものづくりのプロフェッショナルであるメーカー、そして、その先に待ち受けるユーザーをも魅了し続けるだろう。
2023/8/29 公開
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