ソフトでしなやかな革づくりに自信あり
松岡皮革(兵庫県たつの市)
1技術と経験の蓄積で革に表情が生まれる
揖保川の支流としてたつの市を南北に走る林田川。滔々と流れるこの川沿いの沢田地区には、かつて手袋用の革を製造する皮革工場が集積していた。1974年創業の松岡皮革も、そんなタンナーの一つである。
「貿易が盛んな時期にはうちにも職人さんが10人くらいいて、手袋用の革を大量生産していました。今では考えられませんが、当時は24時間体制を敷いていたそうで、社長を務めていた父と専務の叔父は深夜まで働いていたと聞きます」
幼い頃の松岡哲矢さんにとって、工場は遊び場だった。小学校高学年の頃から手伝いをはじめ、基礎をあらかた学ぶ。その後、20歳から働き始め、現在は6人で仕事を回しているという。
「うちがずっと得意にしているのは、やわらかい革。なめし、染色、加脂など、すべての工程において独自のノウハウを持っています。ただ、僕が働くようになってからは、お客さんからオーダーがあれば、厚物や硬い革づくりにもなるべく対応するようになりました。仕事に幅を持たせると、いろいろな方に喜んでいただけるのが嬉しいですね」
2メーカーとの相性がものづくりを左右する
「キャパが小さいので、新規開拓はあまりできません」と話す松岡さんだが、東京のメーカー、DIECI-LABOとの取引が始まったのは比較的近年のこと。問屋さんから同社代表の田村晃輔さんを紹介され、徐々に親交を深めていった。
「当初はカーフを扱っていることに興味を持っていただいて、うちが得意とするソフトでしなやかな革をつくるようになりました。オーダーのあった中間色はなかなか色出しが難しいので、薬品屋さんと何度も相談しましたね。田村さんとはフィーリングが合うので、一緒に革づくりをするのはやりがいがありました」
完成したプロダクトを見て、素直に「欲しい」と思えるものが多く、嬉しかったという松岡さん。今後は、まったく風合いの異なるゴツゴツした味わいの革をつくる話も出てきているという。
DIECI-LABOとの出会いは問屋からの紹介であったが、同様のパターンで靴・バッグの修理屋さんともつながった。「向こうさんにとっては、タンナーに直接『こういう革が欲しい』と言えるのは、メリットが多いそうです」。コストが割高になることを承諾してくれるのであれば、小ロットでも可能な限り対応しているという。
3JLPタグはタンナーとしての誇りの象徴
さまざまなメーカーから支持される技術を継承し、次世代につなげていきたいと願う松岡さん。自社だけでなく、日本のタンナーのものづくりにも注目が集まることを願っている。それでは、ジャパン・レザー・プライド・タグについては、どのような思いを抱いているのだろうか。
「JLPタグは、僕たちの誇りを象徴してくれていますよね。メイド・イン・ジャパンであることを認めてくれるものがこれまでなかったので、タグというかたちでアピールできるのはとても良いことやと思います。厳しい検査基準をクリアしているから安心・安全だし、生真面目さと繊細さで良質な革をつくっているという自負もありますから」
そんな日本の革をさらに広めるため、松岡さんは地域で地道にイベントを行うほか、繊維の総合見本市である「JFW JAPAN CREATION」に出展し、さらなる普及を目指す。
今後の展開から、ますます目が離せないタンナーである。