「革の黒ダイヤ」黒桟革を生産する唯一のタンナー
坂本商店(兵庫県姫路市)
1世界有数の見本市で受賞経験あり
「私らにとって黒桟革は身近にあるものやからね。ここ数年で第三者に評価してもらえて、客観的にその良さに気づけたというのはあるかもしれん」
坂本商店の代表である坂本弘さんは、気取りなくそう語る。同社の創業は1923年。弘さんの伴侶である美記子さんの祖母が興した会社はあと数年で百周年を迎えるが、ふたりは「言われればそうかって思うけど、日常では意識せんね」と、飄々としている。
だが、同社が生産する黒桟革(くろざんがわ)は世界的に高く評価されている。2014年の香港APLFのMM&T展(素材展)では、日本人初となるベストニューレザー部門の大賞を受賞。さらに2016年には、パリ開催の「プルミエール・ヴィジョ」にて、PVアワード(テキスタイルアワード)のレザー部門でハンドル賞受賞。日本企業として初の快挙を成し遂げた。
黒桟革は、古くは戦国時代の甲冑、現在では剣道の防具や竹刀に用いられる革。ダイヤモンドの粒をちりばめたような美しさから「革の黒ダイヤ」の異名を持つ。その風合いは、なめしの技術と漆塗りの技術が融合して、初めて完成する。
「完成までには、下地で3ヵ月、漆塗りで1ヵ月半。一枚ずつ手作業で、環境に負荷のかからない革をつくろうと思ったら、どうしても時間がかかる」
独自のレシピでつくられる黒桟革。世界中を見渡しても坂本さん夫妻にしかつくれない、希少なる革なのである。
2アパレル業界からの注目度が年々上昇中
国内に限らず、海外のファッションメーカーからも引く手あまたの同社だが、ここまでの道のりはけっして平坦ではなかった。
「剣道用の革の注文がどんどん減るなか、12~13年前からいろいろな展示会に参加し、また1枚から革を販売するなどして、ファッション業界の方たちに知っていただく努力を続けてきました。その結果、色々な方が面白がってくれて、インターネットで黒桟革を広めてくれたんです」
そう語る美記子さんによると、2014年の生産は剣道用の革が9割を占めたが、2019年にはアパレル用が9割へと逆転。ルーツである剣道用の革の生産をやめる気はないものの、坂本さん夫妻はこの変化をポジティブに捉えている。
そして、黒桟革を広めた人々には、京都の京でんというメーカーの代表を務める竜田昌雄さんも含まれる。
「実際に姫路まで来てもらって、歩留まりのいい型押しの黒桟革を使っていただけるようになりました。竜田さんは何をするにしても積極的に動く方で、黒桟革のアピールにも一役買ってくださっている。本当に感謝しています。実際に製品を見て、うれしくなりました」
独特のツヤとシボ感のある黒桟革でつくるプロダクトは、和のテイストが感じられる秀逸なプロダクト。京でんの革小物ブランド「COTOCUL(コトカル)」の評価も高めた。
3国内における国産レザーの認知を高めたい
2019年には、黒桟革を展示したギャラリースペースをオープンし、より広く発信するための環境を整備。また、一度は社会に出た坂本さん夫妻の息子、悠さんが入社したことも大きなトピックだ。
悠さんは大学卒業後、東京の商社に入社したが、社会に出てあらためて両親の仕事に興味を抱いたそう。現在は革づくりの基礎を学びつつ、営業にも取り組んでいる。弘さんは「若い感覚でSNSなどを駆使して、情報発信を頑張ってほしい」と、期待をかけている。
黒桟革は、「パリ・コレクション」において、山地正倫周氏のブランドである「RYNSHU」(リンシュウ)の衣装素材に起用されるほど、そのブランド力が評価されている。悠さんの世代がアピールを続ければ、さらなる広まりを見せる可能性もある。
また、弘さんはジャパンレザーの周知にも大いなる関心を抱いている。
「日本が革の産地であることをご存じのない方もいるから、とくに国内の方に向けてJLPタグなどで周知をしていくのがいいと思う。そして、メーカーさんにも日本の革を使ってもらえるようになったら理想的やね」
自社で生産する黒桟革だけではなく、日本の皮革業界全体の動向も気にかけている坂本さん夫妻。その広い視野が、世界で評価される理由なのかもしれない。