ヨーロッパに負けない日本ならではの革づくり
有限会社 大昌(兵庫県姫路市)
1馬のキズを活かし風合いを出す
日本で初めて神社へ革を奉納した皮革製造業者、大昌。創業は1925年と古く、現在は3代目の大垣昌道さんが社を牽引する。ちなみに、初代のお名前は昌次さん、2代目は昌義さんで、次期4代目の昌輝さんも次新世代を牽引すべく鋭意奮闘中。お察しのとおり、社名は初代のご尊名が由来であり、代表者は代々にわたって「昌」の字を受け継いでいる。
大昌で製造しているのは、馬革が9割。また、珍しいところでは、害獣として駆除されたイノシシやシカの製革にも取り組んでおり、常に新しいことに挑戦するという姿勢で仕事にあたっている。
馬革に関しては、3代目になるまではライニング用の革を中心につくっていたが、近年は衣料革の製造にも力を入れている。
「馬革は牛などに比べてキズが多いのが特徴です。当社では、キズを塗料で隠すのではなく、うまく味になるような革づくりを心がけています」
そう語ってくれたのは、大昌で働く柳田径哉さん。キズを活かした革づくりの一環で、さまざまな試みを行っている。
2革に蝋を塗り込み濃淡をつける
キズを隠さずにつくる革とは、つまりは染色しただけの素上げの状態。大昌ではこの革にプルアップ加工を施し、手で押し上げたり折り曲げてシワにしたときに濃淡が表れるよう仕上げる。また、加工する際にはオイルとともに蝋(ロウ)を用い、表面に光沢を出している。こうすることで、キズは風合いとして味に変わる。
「馬革は特殊な繊維層になっていて、牛革より薄くて軽いうえに、同じ厚みだった場合には強度でも勝っています。馬革そのものがとても上質なものなので、素上げに近い状態に仕上げるのが当社の方針。蝋を閉じ込めた革は、経年変化も独特なものがあるので、製品になってから使い込んでエイジングを楽しんでほしいですね」
原皮の処理から仕上げまでを一貫して行っている大昌では、理想的な革をつくるために妥協せず研究ができる。昌道さんをはじめ、職人たちの手によって、柳田さんが話すところの「奥行感と底ツヤ感のある革」が誕生したのだ。
3革素材そのもので脚光を浴びたい
そんな大昌の昌道さんは、ジャパン・レザー・プライド・タグの普及に尽力する代表的な人物の一人。柳田さんも、JLPタグのコンセプトに共鳴しているひとりだ。
「ヨーロッパとは歴史が違いますから、皮革製品の根付き方が違うのも当然やと思います。でも、今この時代になって、日本でも対等にいい革がつくれるようになったということはどうにか知らせたいな、と。メイド・イン・ジャパンの革をアピールするには、こういうタグは効果的だと思います」
JLPタグは、基本的にはプロダクトにつけるもの。けれど、柳田さんは後々革そのものにも付けられる仕組みにすれば面白いのではないかと語る。
「自社工房もやっていますが、うちの本分はタンナー。なので、素材である革そのものにもタグを付けられるようになったら理想的です。たとえば、海外から注文が入って革を送ったときに、このタグを見てもらえたら嬉しいでしょうね」
柳田さんの夢が叶う日は、そう遠くないかもしれない。