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日本のタンナーTanner

メッシュ加工に耐える「軽さ」「柔らかさ」「しなやかさ」を満たす
株式会社 墨田キール(東京都墨田区)

株式会社 墨田キール(以下、墨田キール)とCoquette株式会社(以下、コケット)は、20年来の付き合いがある事業パートナー。ピッグスキンの「フィオーレ」は、「革を折りたたんでメッシュ状にしたい」というコケット側からのオーダーを受けて開発がスタートしたという。そんなフィオーレの特長と、コケットとのパートナーシップについて、墨田キールの代表取締役 長谷川憲司さん(以下、長谷川社長)に話を聞いた。

「フィオーレ」は、コケットのデザイナー・代表取締役の林きょうこさん(以下、林社長)からの依頼でつくったと伺っています。そもそも、林社長とはどのような経緯で出合ったのでしょうか。

フィオーレのサンプルを見せてくれた長谷川社長。

時期としては、彼女が「台東デザイナーズビレッジ」(以下デザビレ)に入った頃だから、おそらく20年くらい前ですね。当時、彼女の頭の中でイメージする革があったみたいなんだけど、いくら探しても見つからないと。それで、デザビレの鈴木村長さんの紹介でうちに来たわけです。そのときに、うちの職人が彼女の望む革をパパパッとつくったところ、彼女は「こんなに簡単にできちゃうんですか?」ってものすごく驚いて、感心していました。それから職人技に惚れ込んで、うちに来るようになったんです。

長年の付き合いがあるから、気心の知れたパートナーという感じですかね。

型押しの「フラワー」は、コケットのオーダーを受けて製造した革のひとつ。

そうですね。彼女がデザイナーの卵というかヒヨコというか、そんな時代から知っているから。もちろん、問屋さんとも付き合いはあるだろうけど、何かしらのこだわりがある革をつくりたいというときは、うちに相談に来てくれます。これまでにコケットさんの依頼でつくったオリジナルの革は、10種類くらいありますね。

フィオーレに関しては、どのようなオーダーがあってつくり始めたのでしょうか。

特殊な加工で、「革を折りたたんでメッシュ状にして使いたい」という話を聞きました。折りたたむと必然的に小さくなりますから、生地としては取れる部分が減ってしまいますよね。なので、ベースとなるピッグスキンはなるべく大判で、質の良いものを選んでいます。ほかのオーダーとしては、「いい下地を使ってほしい」「色合わせをしっかりしてほしい」、そのくらいですかね。

林社長に話を伺ったところ、「軽く、やわらかく、しなやかな革が欲しかった」とおっしゃっていました。これらの要素を満たすためにした工夫は?

完成したフィオーレを検品する長谷川社長。その目に力がこもる。

やわらかさとしなやかさを満たすとなると、当然、タンニンなめしの革ではなく、クロムなめしの革を使うことになります。そのうえで、加脂の工程で加える脂の量や、空打ちする回数などを調整しています。軽さについては、革を薄くする漉きが重要になるけれど、その工程は外部のパートナーに作業をお願いしています。

フィオーレに関して墨田キールさんで行っている作業は、なめされた革の染色・加脂と表面の加工まででしょうか?

そうです。ちなみに、革をメッシュにする加工はポリエステルを扱うプリーツ工場にお願いしているみたいです。すごいアイデアだよね。うちでは、プリーツ加工の工場に行く手前まで、ベースとなる革をつくっているとイメージしてもらったらわかりやすいかな。

染色や仕上げに関してはいかがでしょうか。

コケットからのオーダーに沿って染色などの作業を行う。

彼女の頭の中に確固たるイメージがあるので、そのイメージと一致させる必要がありましたね。たとえば、「赤みも青みも強すぎてはダメ」とか「テカテカしすぎるのは避けたい」とか。もともと化粧品会社で開発をやっていた人で、美意識やこだわりが人一倍強く、なかなか手強いですよ(笑)。そうして完成したのが、ブラックとアイボリーの二色です。

フィオーレをつくったようなやり取りが、20年続いてきたわけですね。

そうです。僕の中には、林社長のような意欲のあるデザイナー、クリエイターを育てないといけないという思いもあったんです。いま、マス市場では海外の革に頼っているというのが実情だけど、僕のような人間がなるべく細かく仕事を受けて、国産の革を使ってもらえるようにサポートできたらいいかな、と。どこを探しても欲しい革がないんだったら、うちでつくりますよって。

フィオーレが使われているバッグ「ジャンヌエス」を初めて見たときの感想は?

驚きました。どうやって革を折っているのかなって。世の中には器用な人がいるもんだなあと思いましたね。

フィオーレは、墨田キールとコケットの強固なパートナーシップが生んだ革といえそうです。

フィオーレのサンプル。コケットに卸しているものとはベースの革や仕上げが異なる。

正直にいえば、林社長から突拍子もない注文を受けるときは「何言っちゃってんの?」って思うことも多いんです(笑)。オーダーを具現化するためにどうすればいいか、いつも悩みますし。でも、それだけうちの技術を信頼してくれてのオーダーだから、気持ちには応えたいしね。ちなみに、林社長のアイデアをもとにデザインしてつくったオリジナルの革は革違いや仕上げが異なるものは別として、ほかの人には卸していません。彼女がうちまできて、何度も相談して、一所懸命につくった革だからね。
2024/10/30 公開
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