変わらぬ勇気を貫くものづくりで普遍性を追求
株式会社 いたがき(北海道赤平市)

同社の代表作である鞍ショルダー。曲線が美しい。
使い手に寄り添い育つタンニンなめし革を使用
北海道赤平市。清澄な空気が満ちる風光明媚なこの地は、かつて炭鉱産業とともに発展し、現在はものづくりの街として未来への礎を築いている。
株式会社 いたがきは、この街で1982年に創業し、鞄メーカーとして歴史を刻んできた。主力となるプロダクトは、タンニンなめしの革を用いた存在感のある鞄だ。

若手からベテランまで、幅広い年齢層の職人が働く工房は活気がある。
「当社は、創業者である父の板垣英三の意向により、創業以来タンニンなめしの革を使っています。当時、タンニンなめしの革は、製造に手間がかかることから生産量が減っていましたが、父は『なくなってからでは遅い』と考え、経年変化が楽しめるタンニンなめし革の鞄を主軸とすることにしました」

代表取締役会長の板垣江美さん(右)と、13年使っている鞄を持つ販売部長の寺田尚由さん。
「私自身、催事でお客様と接する際は、製品説明よりも先に、板垣英三さんのバックボーンやイズムをお伝えするようにしています。当社のものづくりの背景を知っていただくことで、プロダクトへの理解が深まり、見方や捉え方が変化するように思うからです」
そう話すのは、販売部長の寺田尚由さん。英三さんのDNAを感じさせるエピソードだ。
曲線の美しさが光る代表作「鞍ショルダー」
同社のものづくりの姿勢を象徴する第一作目であり代表作でもあるのが、馬具としての鞍(くら)をモチーフとした「鞍ショルダー」である。厳選したタンニンなめし革を使い、その特長を生かしてなめらかな曲線美を表現している。

鞍ショルダーの被せ部分。一つひとつのパーツを丁寧につくっていく。
マイナーチェンジを繰り返しつつ、ベースとなる製造方法は変えていないという鞍ショルダー。丸みを帯びた独自のフォルムにするためには、固く張りのあるタンニンなめし革を使い、50個以上のパーツをふっくらと立体的に仕上げる必要がある。特に重要な工程となる手縫いについて、江美さんは「厚い革に針を通すためには、熟練の技術が必要です」と、話す。その魅力はが多くの人々に伝わり、ロングセラーとなっている。

裁断の風景。端切れ革も小物類などに使って余らせない。
「バッグでも小物でも、重要なのは製品を開発した当初の目的や理由を忘れないことです。お客様のニーズを捉えることはとても大切ですが、すべての要望を受け入れてしまったら芯がぶれてしまう。鞍ショルダーのように、長く変わらない製品の良さは必ず伝わると信じています」(江美さん)

開放感のあるショールーム。さまざまなプロダクトが並ぶ。

左から鞍ショルダー(小)、馬蹄ドル入れ、鞍 キーケース、あぶみキーホルダー。
いたがきの本質とは、先人の思いと技を受け継ぎ、変わらぬ勇気を持つこと。時代に左右されないものづくりの理念は、北の大地にどっしりと根を下ろしている。