重さのあるヌメのゴートを、軽くて耐久性のある風合いに。
株式会社 小笠原染革所(東京都墨田区)
ヌメライトゴート(画像上、トープ色の革)は、ヘビーデューティーなゴートと違いソフトな仕上がり。
普段は婦人靴用のラムとゴートをメインに製造している株式会社 小笠原染革所(以下、小笠原染革所)。以前から取引のある三竹産業からの依頼を受け、ヌメでありながらも軽くてソフトなゴートの開発にチャレンジした。ヘビーデューティーなヌメのゴートをオーダーに沿った革にするために、いったいどのような工夫を施したのか――。「ヌメゴートライト」の開発秘話について、代表取締役の小笠原誉行さん(以下、小笠原社長)に話を伺った。
ヌメゴートライトはどのような経緯で開発に至ったのでしょうか。
ヌメゴートライトを製造する際のポイントを語る小笠原社長。
ANNAK(アナック)というブランドを展開している株式会社 三竹産業さん(以下、三竹産業)からの依頼が開発のきっかけです。三竹産業さんとは以前から取引があり、問屋さんを介さずに直接やり取りをして革をつくっていました。基本的にはタフで頑丈なヤギ革(ゴート)を製造することが多いのですが、それとは正反対のオーダーだったので、「これは大変だな」と思いましたね。
「正反対」とは、具体的にどういう意味でしょうか。
そもそも、ゴートのヌメは重い革です。ベースは重みのある革なのに軽くソフトに仕上げてほしいというオーダーだったので、専用の処方を組み立てる必要がありました。
三竹産業さんがなぜゴートのヌメをオーダーされたのか、理由を聞いていますか。
そこまでは聞いていません。ただ、これまでの注文履歴から推察するに、ヌメがお好きなのは確かなようです。これは別のメーカーの方に伺った話ですが、クロムだとハサミで裁断するときに革がグニャグニャ、ボソボソするらしいです。ヌメだとハサミがシャープに入るので、角の切り口が綺麗になるというのはあるようですね。もしかしたら、そういった理由もあるのかもしれません。
ソフトで軽い革に仕上げるために工夫したポイントは?
実際に手で革を持ってみると非常に軽く、しなやかなやわらかさが実感できる。
まず、シェービング加工で厚みのあるヌメ革を薄くしています。小判の革の場合、手作業で厚みを測りながらシェービングしていくため、一定の厚さに仕上がらないという弱点があります。一方で、厚みのある部位、たとえば首などを削りすぎないよう手心を加えられるため、床面を削りすぎて、銀下が剥き出しになるのを防ぐことができます。銀下が出てしまった部位は強度が落ちてしまいますからね。革漉き機を使うとどの部位も厚みは一定になりますが、薄くしようとすれば銀下が剥き出しになってしまう可能性があるので、そういう意味では、手作業ならではの良さが発揮できていると思います。
もうひとつは、薬品の調合です。一度なめした革は大きくキャラクターを変えることは難しいのですが、ゴートにはあまり使わない薬剤を用いて再なめしをすることによって、ふんわりするように仕上げています。革をやわらかくする加脂剤も、レディースの手袋用の革を製造するときと同じものを使い、やわらかさと軽さを引き出しました。
般的なゴートのヌメとは異なる個性に仕上がっているのですね。
そうですね。ゴートのヌメをソフトに軽く仕上げてほしいというオーダーはほぼないので。ゴートのヌメは普通だとヘビーデューティーな特性の製品が多いので、そういったよくあるゴートのヌメとヌメゴートライトを比べてみると、違いがわかって面白いと思います。
三竹産業さんに話を伺ったところ、色味の美しさも追求したと話されていました。グリーン、トープ、ブラックの3色をおつくりになっていますが、染色にあたってのご苦労はありましたか。
「小笠原染革所」という社名どおり、オーダーに沿った色に仕上げるのは得意中の得意
当社は社名で「染革所」を名乗っており、お客様の希望する色に仕上げる技術には自信があります。なので、とくにつまずくことはありませんでした。やり方としては、オーダーの際にいただいたサンプルを見て、忠実に色合わせをしていくというのが当社の基本です。
出来上がった製品「ゴートレザーリュック」をご覧になった率直なご感想は?
三竹産業が展開するブランドANNAK(アナック)が製造販売する「ゴートレザーリュック」。
手前味噌ですが、やはり軽さにびっくりしました。素材となる革はうちでつくったものですけれど、ゴートのヌメを使ってここまで製品を軽くできるのかと驚きましたね。使い勝手もとても良さそうに見えます。
三竹産業さんからのオーダーのように、メーカーさんと直接やり取りをする仕事にやりがいを感じますか。
「うちでつくった革がベースですが、この軽さには驚きます」と、小笠原社長。
そうですね。「こういう革がほしい」とリクエストされて、それに応えられたときにはやりがいを感じます。ヌメゴートライトは、めずらしいオーダーなので開発の大変さもあるにはありましたが、三竹産業さんから「ゴートなら小笠原染革所さん」というかたちで指名を受けたわけですから、「オーダーに応えよう」と気持ちが入りました。普段仕事をしていて、革の特性について深く理解している人が減ってきているように感じる昨今ですが、プロフェッショナルなメーカーさんと仕事ができるのは、やっぱりうれしいですね。
2024/10/30 公開