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日本のタンナーTanner

ものづくりの要は心の通ったコミュニケーション
有限会社 大星産業×株式会社 京でん×株式会社 寿屋

左から、寿屋の奥さん、大星産業の朝倉社長、京でんの竜田社長

京都のメーカー「株式会社 京でん(以下、京でん)」の依頼を受け、真珠のように輝くパールレザーを開発した加工専門のタンナー「有限会社 大星産業(以下、大星産業)」。今回は、大星産業の取締役 朝倉譲治さん(以下、朝倉社長)、京でんの代表取締役 竜田昌雄さん(以下、竜田社長)に加え、二者を仲介する重要な役割を果たした革問屋「株式会社 寿屋(以下、寿屋)」の奥弘之さん(以下、奥さん)も交えて鼎談を実施。パールレザーの開発経緯から革づくりにおける問屋の重要性に至るまで、じっくりと語っていただいた。

試行錯誤の末に完成したパールレザーが気持ちを高める

パールレザーの開発前、竜田社長はどのような革を探していたのでしょうか。

かつて「コトカル」のミニ財布に使われていた立体感のあるモザイクステンド。

竜田社長

元々、当社のブランド「COTOCUL(コトカル)」のラインでヒットしているミニ財布があって、その財布に合う新しい革を探していたんです。そこで寿屋の奥さんに紹介してもらったのが、大星さんのモザイクステンドという立体感のある革。裁ち版の25cm角だったのですが、財布2つ分取れるちょうどいいサイズで。その革で財布をつくったところ、ユーザーからの反応は良かったんです。ただ、モコモコした凹凸でお札をスムーズに収納しにくいという問題があり、一旦製造を中止しました。

奥さん

その後、朝倉社長がフラットなモザイクステンドを開発し、竜田社長に提案したところ、取ってくれるようになりまして。その色違いとして、竜田社長からオーダーを受け、ホワイトのパールレザーが誕生したという流れです。

パールレザーの原型となるフラットなモザイクステンド。

朝倉社長

この革をつくるにあたっては、長い歴史がある。最初、トルコランプのシェードに使われているガラスのモザイクをモチーフにしたグラビアロールの柄をつくったけど、思うように売れなかった。で、型版屋さんで画像処理をしてもらって柄を大きくして、25センチ角の型版をつくった。ただ、その革は水で戻しているから腑が盛り上がっていて、財布には合っていなかったということやな。そこで、初めのグラビアロールの柄のいい部分を取って、フラットに引き伸ばしたところ、これならいけると。そのモザイクステンドを白く表現したのがパールレザーや。

パールレザーという名前は、竜田社長が名づけたそうですね。

竜田社長

わかりやすいでしょ。真珠の貝殻の裏側ってキラキラしているじゃないですか。ああいう雰囲気が出ているから、パールレザーがいいかなと。ラメが細かく入っているのがいいですよね。それと、エナメル仕上げだから汚れやキズにも強いです。

上品な美しさを湛えるパールレザー。光の当たり方によって色が変化する。

朝倉社長

この革は見る角度によって色が変化するから、竜田社長がパールレザーって名前をつけてくれたのには納得したな。僕としては、白で表現してほしいと言われたら、プラチナパールか偏光パールを使うしかないわけ。それがピッタンコにハマった。偏光パールを3色吹くことによって、ほかでは真似できない表現に仕上がった。エナメルを最終コーティングするときに、キラキラ光るLGパールも入れているから、なおいっそう高級感が出ているね。

パールレザーを使った製品について、特にユーザーに感じてほしいメリットは?

竜田社長

「パールレザー 小さい長財布」に関しては、名前どおりサイズ感をミニマムにしているのがポイントです。ミニ財布は持ち運びには便利やけど、使いにくいという理由で長財布に戻す人が多いんです。だから、一万円札がギリギリ収納できる長財布をつくろうと。軽くて薄くて短い、ギリギリのサイズを攻めました。プラス、お札が奥までスムーズに入るように下のマチの部分をカットしています。なぜかというと、一万円札がマチに当たるとお札の角が折れてしまうからです。
「パールレザー ハンドバッグ」の方は、外マチにしたりホックを強化したり、最初につくったサンプルから何度もアップグレードしています。僕らは工房と販売を一貫体制でやっているから、何度もブラッシュアップして正解に近づけることができる。結果、軽さがあり、パッと目を引き、使う人の気持ちを高めるものに仕上がったと自負しています。

朝倉社長、京でんさんのアイテムをご覧になった感想は?

朝倉社長

ワクワクしますよ。僕のつくった革がここまでになると思うと、うれしくてしょうがない。最初に財布を見た時、「これ、お札はどこ入れんの?」って思ったけど、ピタッと入るからビックリした。25cm角サイズで財布2つ分が取れるっていうのもちょうど良かったな。

問屋の「提案型営業」がタンナーとメーカーを支える

竜田社長は朝倉社長の仕事ぶりについて、どのような部分に魅力を感じますか。

対面のコミュニケーションで革づくりを進める朝倉社長と竜田社長。

竜田社長

和歌山のタンナーさんがどんどん減っている中で大星産業さんが残っているのは、 やっぱり技術があるからやろうなって。付き合いが始まって2年ですけど、ブラッシュアップするスピードが本当に早い。あと、大抵の人は年齢を重ねると頭が固くなるものですけど、朝倉社長はめちゃくちゃ柔軟なんです。そこが強みかなって気はしますね。

朝倉社長

柔軟じゃないと、うちみたいな小さいタンナーは生き残れないから。上の化粧で勝負しているから、いろいろと研究して今までにない革をつくろうという意欲だけはあるわけ。だから、京でんさんのように変わったことを言ってくるメーカーさんが好きだし、仕事として楽しいわけよ。新しいことに挑戦させてくれるから。

奥さん

ここまで対応してくれるタンナーさんはめずらしいです。どんなリクエストでも無理とはいわない。

朝倉社長

とりあえず、何でもチャレンジ。無理なこともあるけど、できる、できないにかかわらずに試してみる。そのときに失敗しても、何年後かに使えるようになる場合があるから、データは全部とってある。奥さんも覚えていてくれるしな。

朝倉社長は、革づくりをするときの着想はどこから?

ユニークな発想とたしかな技術で、新たな革づくりへのチャレンジを続ける朝倉社長。

朝倉社長

テレビ。NHKの番組とかはすごく参考になる。あとは、自然界の花や虫の配色とか、新車の流行色なんかをかなり研究している。いろいろなとこから吸収しているね。実際には、自分からアイデアを出すのが3割、奥さんから提案を受けるのが7割やけどな。

奥さん

正直、朝倉社長のアイデアにピンと来ない時もあるんですけど、それを僕はなんとなく覚えていて。時間が経ってから「そういえば、何か言っていたな」って思い出して、新しい革ができるケースもあります。

竜田社長は、基本的に奥さんを通して革をオーダーされるのでしょうか。

朝倉社長と竜田社長が口をそろえて「重要な存在」と語る寿屋の奥さん。

竜田社長

すべてそうです。なぜなら、僕には知識と知恵がないから。僕の要望を噛み砕いて、朝倉社長に「こういう革が欲しいみたいです」と提案してくれるのが奥さんの役割です。パールレザーをつくるうえでも、一番重要な部分を担ってくれたかもしれません。

朝倉社長

一番重要や。奥さんとは20年の付き合いがあって、うちの革をいろいろとコーディネートしてくれている大切な存在やね。

奥さんは、どのようにご自身のスタイルを確立したのですか。

奥さん

朝倉社長をはじめ、タンナーさんにいろいろと教えてもらって積み重ねたものが活きているのでしょうね。今も朝倉社長には月一でお会いして、いろいろと吸収しています。

竜田社長

例えばワインのソムリエだったら、「このお肉に合うワインはこれですよ」と言えますよね。奥さんはレザーソムリエで、うちの製品と大星産業さんの革について知り尽くしていて、そこをうまく合わせてくれる。知識はもちろん、知恵があるんです。プロフェッショナルやと思いますね。提案型の営業ができるのは彼の強みだと思います。こうやって、タンナー、メーカー、問屋が力を合わせて、業界全体を盛り上げていかないとね。

奥さん

そうですね。革問屋の存在する意味はそこにあるかもしれないです。

パールレザーの開発の裏側にある三者の関係性がよくわかりました。

竜田社長

今日、こうやってみなさんの話を聞いていて、やっぱりものづくりが好きなんやろうなと思いました。オンラインでもコミュニケーションができる世の中で、僕らは会って、話して、人柄まで感じながらものづくりをしている。タンナーまで連れてきてくれる問屋さんはめずらしいんやけど、奥さんはそれをしてくれるからね。これからも、話をしながら人を感じられるものづくりをしてきたいですね。

奥さん

実際、メーカーさんをタンナーさんまでお連れした方がいい革ができますからね。

朝倉社長も、ものづくりがとことん好きで、とにかく楽しそうにお見受けします。

タンナー、メーカー、問屋の強固な結びつきが良質な製品を生み出す。

朝倉社長

そりゃ楽しくなかったら何十年もやってないよ。あとは、このふたりのような仲間がいるから続けられる。ただ、最近は奥さんがちょっと冷たいから、もっと会う回数を増やしてほしいな(笑)。

2024/10/30 公開
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