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日本のタンナーTanner

国産牛の脂感、強度、軽さを引き出したグラブ用レザー
株式会社 寺田製革所(兵庫県たつの市)

野球用グラブ専門のタンナーとして知られる株式会社 寺田製革所(以下、寺田製革所)。現在の主力商品であるTWV(Terada World Victory)は、生産量の大半をアメリカのメーカーに卸している。そんな革の開発に関わったのが、ファクトリーブランド「D-Quest」を展開する大阪の丸和株式会社(以下、丸和)だ。寺田製革所の代表取締役である寺田和正さん(以下、寺田社長)に、その経緯を聞いた。

TWVを開発した経緯を教えてください。

穏和な表情でTWVについて話す寺田製革所の代表取締役、寺田和正さん。

10年ほど前に、北米産の原皮をベースにしたTWVの原型となる革を開発しました。その後、丸和の代表取締役の丸橋 暁さん(以下、丸橋社長)から「変わった革はないか」という連絡があって。でも、うちはグラブ用の革をつくっているタンナーやから、この味付け(加工)しかできないからね。だったら材料を変えてみようということで、国産を使うようになったのがTWVの始まりです。

国産の原皮は、グラブ用に適しているのでしょうか。

北米産の皮は厚みがあるのですが、それと比較すると国産は薄いからグラブ用に適さないと言われていたんです。加えて、国産は脂分が多いので、染色のコントロールが難しく、たとえばブラウンだったらチョコになってしまう。ただ、赤や青であれば濃く染まるから、極端に薄い色のオーダーを受けなければ何とかなるかな、というところで革づくりが始まりました。

国産と北米産、風合いの違いは?

国産は北米産に比べて、脂感があって少し軽いです。そして、強度も上回っています。だから、TWVが完成したときは、正直、こっちの方がグラブに適しているな、と思いましたね。あと、北米産は厚いから削って捨てる部分が多いけれど、国産はちょうど良い厚みやからほぼ削らずに済みます。それで緻密な繊維が残るから、堅牢度が高いのかもしれませんね。

丸橋社長から、寺田社長とは同い年で30年の付き合いがあると伺いました。ただ、直接受発注をするのではなく、問屋さんを通されているそうですね。

取引先の要望には柔軟に対応。職人の創意工夫が良質な革を生み出す。

そうです。ただ、「革をああしてほしい、こうしてほしい」という細かい要望については、直接丸橋社長から電話を受けています。もともと仲が良いし、お互いにものづくりをしているから話が早い、というのもありますね。丸橋社長は、革に満足しているときは何も言ってこないけれど、そうでないときは連絡がきます。そのときは自分の方も何かしらの改善をして、革をより良くしていくというのがいつもの流れです。

丸和さんで話を聞いたところによると、ロットの中で多少硬さの違いがあるので、それぞれ適したポジションに使用していると伺いました。

たとえば、10枚とか20枚とかをセレクトした場合、ロットの中で多少の差異が出ますから、丸和さんの方で硬い革はこっち、やわらかい革はこっち、といった具合に、グラブのポジション別に使う革を分けているんやと思います。それと、部位によって硬さが違うので、パーツごとに使い分けているでしょうね。暁さんからは、「TWVは今までどおりでええから、全部こっちでどうにかするから」と言われています。

丸和のみなさんは、寺田製革所さんの製革の技術を称賛していました。プレイヤーだけではなく、職人がグラブをつくりやすい革でもあるという話が印象的でした。

僕のポリシーである「70点の革」が届いているのかな、と思います。ありがたいですね。

寺田社長ご自身は、TWVの完成度に満足されているのですね。

真空乾燥は外部の工場に委託。革の表面を引き締める工程だ。

そうですね。平均的にいい出来栄えになっていると思います。ある程度は満足していますね。ただ、近年は脂感、オイル感などを保ったままで、淡い色が求められることもあります。そのときは、オイル感などの面で多少メーカーさんにも多少妥協してもらいつつ、お互いの落としどころを見つけるようにしています。

寺田製革所さんの革が世界中でグラブになっていることを考えると、TWVという名称はまさにピッタリですね。

整理整頓が行き届いた寺田製革所の工場。ここでTWVがつくられる。

このくらいの名前をつけないと、日本の革が世界に出ていけませんからね(笑)。一方で、SDGs的な話でいえば、国産牛を食べている日本のみなさんにもっとTWVを使ってほしいという思いもあります。ちっぽけな会社かもわからんけど、僕たちはMLBのプロ選手が使っているグラブの革素材をつくっていることに誇りを持っていますからね。
2024/10/30 公開
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