忌憚なく意見を言い合える関係性から革が生まれる
株式会社 キタヤ × H(岡山かばん)
ビジネスパートナーでありながらかしこまらず、ざっくばらんに意見を交換してものづくりに取り組む――。そんな関係を長年続けているのが、株式会社 キタヤ(以下、キタヤ)の代表取締役である吉田健男さん(以下、吉田社長)と、岡山かばんというブランドを展開するH(以下、アッシュ)の林侑希さん(以下、林さん)だ。吉田社長が開発した箔押しの「シュリンクレザー」とその革を使用した「トートバッグ」について、詳しく話を聞いた。
目指したのは、人の目を引く新しい革
おふたりはどのようなきっかけで出会ったのですか。
吉田社長
僕が「革の森」というレザーサロンをオープンした際に、革製品の展示をお願いしたのが初めてのやり取りになります。
林さんがブランドを始めたのはいつから?
林さん
2018年です。地元が岡山なので、地場産業の素材であるデニムと革を組み合わせたアイテムをつくるようになり、現在に至ります。以前は問屋さんで革を買うこともありましたが、吉田社長と出会ってからは100パーセント、キタヤさんから仕入れています。
吉田社長
林さんとはサブスク契約なので、「そろそろ在庫がなくなるかな」と思ったら勝手に革を送りつけているんです(笑)。それは冗談として、基本的に僕がおすすめする革を使ってもらっています。
林さんは、キタヤさんから革を仕入れるメリットをどのあたりに感じますか。
林さん
型押しのパターンだけでもすごい数があるし、色出しに関してもどんなオーダーにも応じてくれるので、表現の可能性の幅が確実に広がりましたね。一度使い始めた革についても、厚みや風合いについて要望をいえば応えてくれるので、とても助かっています。僕のリクエストでカスタマイズしてもらった革が、今、当社で使っている定番になっています。
吉田社長
通常、革を買ってもらう場合は、当然、打ち合わせを経て革づくりをしますが、林さんとのあいだにはそれがまったくなくて、僕が好き勝手につくった革を気に入って使ってくれています。ただ、林さんも「これだと厚すぎて使えない」という要望ははっきり言ってくれる。普段の会話の100のうち99はふざけているけれど、大事なことはちゃんと言い合える間柄ですね。
箔押しの「シュリンクレザー」について、事前取材ではおふたりとも「人の目を引く革を目指した」とおっしゃっていました。
吉田社長
今の主流がシュリンクレザーなので、全面にシルバーの箔を押したら面白いかなって。で、シボのバージョンとカラーバリエーションを増やし、高付加価値商品として展開していくのはどうだろうかと提案しました。
林さん
目を引くものや、新しいものをつくりたいという思いは、お互い、常にあると思います。普段から何気なくそういう話をしていたので、箔押しのレザーもその延長線上で生まれたのかな、と思いました。
吉田社長は、どのようなイメージを描いてこの革を開発したのでしょうか。
吉田社長
どのようなイメージを描いてこの革を開発したのでしょうか。 吉田社長:具体的なイメージがあったというよりは、箔を試してみたいという気持ちが大きかったですね。今回のシルバーはあくまでテストケースで、今後はプラチナ、ゴールド、ピンクも試してみたいです。ちなみに、箔貼りの作業そのものは、外部のパートナーにお願いしています。
開発した革が完成に至るまで、苦労した点は?
吉田社長
たとえば、革をやわらかくするために、箔を貼ってからドラムで空打ちをして失敗するなど、それなりに試行錯誤はしました。そのような過程を経て、結果的にいい革ができたと思っています。
シルバーの箔押し革が「普段使い」できるバッグに
林さんがこの革を選ばれた決め手は?
吉田社長
箔のパターンが異なる数種類の革を提示して、その中から裁断や縫製などの作業がしやすく、バッグになったときに映えるものを選んでもらいました。僕自身はさわり心地の良い革をプッシュしましたが、そっちは選ばれなかった(笑)。林さんの意思が入っているという意味では、ふたりの合作やね。
林さんがシルバーの箔押しレザーを「トートバッグ」に使う際、気をつけたことは?
林さん
そもそも、アッシュのブランドコンセプトが「普段使い」なんです。日常使いできるデザインを考えると、箔レザーだけだとギラギラしすぎるように思えたので、ピンポイントで目立たせました。これくらいのバランスなら使ってみたいと思う人もいる気がしますね。
吉田社長
僕自身はフルボディに箔レザーを使うイメージをしていましたが、完成品を見て箔がアクセントで良かったと思いました。いいバランスやね。
2種類の革を使ううえで意識したことはありますか。
林さん
デニムとレザーを組み合わせた同じ型のバッグをつくっていたので、配色のバランスは間違いないなと思っていました。その中でシルバーが活きる色を考えて、黒を組み合わせてトータルのバランスを担保しました。この型のバッグでオールレザーは初めての試みです。
バッグの機能面にかんしての工夫は?
林さん
今流行しているビジネスバッグほどではありませんが、ポケットが多めで普段使いに便利だと思います。また、使いやすさを意識し、元々の型から持ち手のデザインと革の厚みを変えました。
今回の取材を通じて、吉田社長さんが林さんに惚れ込んで期待をかけていることがよくわかりました。
吉田社長
それはもちろんあります。アッシュの事業規模が着実に大きくなっているので、さらに突き抜けてメジャーになってほしいなって。すなわち、それは僕の商売に直結しますんで、「革といえばキタヤ」っていうフィードバックをもらえれば最高です(笑)。
林さん
正直、まだまだですけどね(笑)。でも、岡山を代表できる鞄屋になりたいという思いはあります。その過程で、お互いパートナーとしてずっと一緒に歩んでいければ最高ですね。
吉田社長
林さんのブランドが大きくなる過程をずっと見てきたし、ここまで一緒にきたと思っているからね。うちも生き残っていけるように、事業の基盤はしっかり築きつつ、次に託せる人が見つかったら託すことも視野に入れています。