タンナー発のブランドとして本革の魅力をストレートに伝える
株式会社 山陽(兵庫県姫路市)
株式会社 山陽(以下、山陽)が2022年10月に立ち上げたレザーアイテムブランド「TAANNERR(タァンネリル)」。本革の価値をストレートに伝えるブランドとして姫路市から公認を受けるなど、徐々に認知度を高めている。今回は、タンナー発ブランドの内実と人気のプロダクトについて、代表取締役でありブランド責任者でもある戸田健一さん(以下、戸田社長)、革づくりからプロダクトデザインにまで携わる髙田来人さん(以下、髙田さん)に話を伺った。
はじめに「TAANNERR」を立ち上げた理由を教えてください。
戸田社長
一番の理由は、タンナー自身の力で革の魅力を直接消費者に届けたかったからです。タンナーは素材メーカーなので、消費者と直接の接点がありません。業界全体で苦しい時期が続く中、タンナーが革の魅力を訴求できないことに歯がゆさがありました。それであれば、自社でレザーアイテムブランドをつくり、ダイレクトに消費者と接点を持とうと考えたのがそもそものきっかけです。同時に、地場産業の革を姫路の観光資源にしたいという思いもありました。現在は姫路市からの公認を受けており、2024年9月には、姫路市のふるさと納税の返礼品にタァンネリルの製品が認定されました。
当初、ブランディングの方向性をどのように定められたのでしょうか。
戸田社長
端的にいえば高級路線です。先ほどの観光の話につなげると、インバウンドの方たちに認めていただくためには、中途半端なレベルのものをつくれません。そうすると、必然的に価格帯も高くなる。最初は苦労するだろうと思いましたが、目標を高く持ってスタートを切りました。
ファーストプロダクトに使用する革を「ピットヌメ革」にした理由は?
戸田社長
第一弾の製品は、本当に革が好きな方に刺さるものにしようと思ったんです。革好きの方はエイジングを楽しむ傾向にある。そういった方たちに訴求する革として、植物タンニンなめしのピットヌメ革がふさわしいと判断しました。
今回は、ファーストプロダクトの中でも人気のあるトートバッグに絞って話を伺います。
デザインをする際、どのようなバッグにしようというイメージがありましたか。
髙田さん
ピットヌメ革が主役になれる、革を大きな面で綺麗に見せられるバッグです。そのためにどういうデザインが適しているか考え、市場にあるバッグを研究しました。結果、シンプルなデザインに行きつきました。
戸田社長
TAANNERRは山陽の社員が始めたブランドなので、髙田を含めて皆、素人です。髙田が革好きなことを知っていたのでデザイン担当をお願いしたのですが、当初は苦悩していましたね(笑)。このような背景なので、突出したデザイン性で差別化をはかるのは難しい。ファーストプロダクトは必然的に、オーソドックスでシンプルなデザインの製品が多くなりました。ちなみに、製品の製造は国内のパートナー企業に委託しています。
トートバッグに使用しているピットヌメ革の特長について教えてください。
髙田さん
ピットヌメ革は、本革らしい経年変化を楽しめる革です。ピット槽でなめしたヌメ革にワックスとオイルを浸透させることによって、ほどよいコシとやわらかな触感に仕上げています。銀面には色移り防止のための塗膜を張っているのですが、銀面からオイルとワックスを入れると塗膜の密着を阻害してしまうため、床面から浸透させています。
このトートバッグでユーザーの方に特に感じてほしいメリットは?
戸田社長
ピットヌメ革を前面に押し出しているので、本革の美しさとジャパンレザーの品質を感じてもらえるとうれしいです。日本鞄ハンドバッグ協会の技術認定一級を保持している職人が製造しているため、フォルムの美しさと型崩れのしにくさが両立できている点も魅力です。タァンネリルのアイテムでは、このトートバッグがもっとも売れています。
髙田さん
どんなファッションにも合う汎用性の高さです。スーツにもカジュアルにも合わせられるので、さまざまなシーンで使えると思います。
ポップアップなどにおける反響はいかがでしょうか。
髙田さん
何個も革製品を持っているという革好きの方から「本当に綺麗ですね」と、感動が伝わってくるような感じで言っていただいたことがあります。ピットヌメ革の魅力を最大限に生かすためのデザインという方向性がしっかりはまっているな、と実感できました。
戸田社長
百貨店にいらした熟年のお客様の言葉で印象に残っているのが、「これが革だよね」というものです。目の肥えた方に当社の本革の魅力が伝わっているな、とうれしくなりました。一方で、20代と思われるお客様にタァンネリルの趣旨を説明したところ、すぐに製品を購入していただいたこともあります。若い方に対しても、本当に価値のあるものだと伝えられれば購買行動につなげていただけるのだな、とリアルに感じましたね。
社長自らが売り場に立たれているという話に驚きました。
戸田社長
私や髙田を含め、ブランドの人間が皆で売り場に立っています。当社にも営業はいますが、消費者相手、いわゆるB to Cの営業経験はなかったので、そういう意味ではデザインと同様にまだまだ素人。また、私自身が直接消費者の方の反応が見たかったので、立ち上げから2年間はひとりで売り場に立つこともありました。そのフィードバッグを商品に活かしたこともあります。とても勉強になりましたね。
最後に、革素材から販売までを一気通貫でできる体制のメリットをどのように感じていますか。
戸田社長
やはり、革からつくれる点ですね。製品のアイデアが浮かんだときに、私たちは革から製造できる。ほかの圧倒的多数のブランドとは入口が違うので、そこは大きな強みです。
高田さん
自分でプロダクトをデザインし、その素材となる革を自分でつくれる環境は、とても恵まれていると感じています。アイテムごとの用途や使うシーンを想像し、革から細かく仕上げの方法を変えられることは、タァンネリルの独自性につながっていると確信しています。