鹿革ならではの風合いが伝統工芸品に活きる
伊藤産業株式会社(埼玉県草加市)

鹿革づくりの技術に長けた伊藤産業株式会社(以下、伊藤産業)。長年鹿革を卸しているメーカーのひとつに、山梨の伝統工芸品「甲州印伝」を扱う株式会社 印傳屋 上原勇七(以下、印傳屋 上原勇七)がある。鹿革と甲州印伝は、切っても切れない不可分な関係。良質な鹿革があって、甲州印伝が完成する。今回は伊藤産業の取締役社長である伊藤達雄さん(以下、伊藤社長)に話を伺い、両者のパートナーシップから新製品RINGLET(以下、リングレット)シリーズの「トートA」にいたるまで、じっくりと話を伺った。
印傳屋 上原勇七さんとの取引はどれくらい前から続いているのですか。

長年にわたり鹿革の製造に携わってきた伊藤社長
甲州印伝用の革は、ほかの革と製造工程が異なるのでしょうか。

鹿革づくり全般を担当する長男の伊藤公則さん。真剣な表情で染色した革と向き合う。
製造工程で気をつけているポイントは?
やはり染色ですね。こちらから送った革は、印傳屋 上原勇七さんの方で真空乾燥機にかけるのですが、革の発色や風合いはそこで決まります。なので、私たちの段階でどの程度まで色を調整するかがポイントになります。乾燥後の革に漆がしっかり乗るようにするためには、油の量の加減も重要です。
鹿革の原皮はどこの国のものが多いのでしょうか。
これまでは中国のキョンという鹿の原皮を使うことが大半でした。ただし、仕入れ先がひとつだと不測の事態が起きたときにリスクがあります。そのため、リスク分散の意味も込めて、近年は北米産やオーストラリア産も使用しています。原産地を問わず鹿はキズが多いので、バッグなどで大きい面を取る場合は、素材を仕入れる段階でなるべくキズの少ないものをセレクトして送ってもらっています。
原産国によって革の製造方法は変わりますか。
それぞれの国で行われたなめしに差異があるので、それらを均一にするため、染色の前にレタン(Retanning=再なめし)を行います。その際は、革の産地によって薬品の調合を変えるなどの工夫をしています。ちなみに、使用する薬品については、印傳屋 上原勇七さんと相談しながら決めています。印傳屋 上原勇七さんが自社工場で行っている加工に即した薬品を使うこともあれば、こちらで考えた処方を提案してそれに沿った形で作業するケースもあります。
今回の印傳屋さんの新製品、リングレットシリーズの「トートA」に使っている「甲州印伝用 鹿革」の原産地は?

胴面に伊藤産業で製造した鹿革が使われているリングレットシリーズの「トートA」
事前に印傳屋 上原勇七さんサイドに話を伺ったところ、「伊藤産業さんは鹿らしい風合いを最大限に引き出し、安定した品質の鹿革を供給してくれる」とおっしゃっていました。

伊藤産業で染色した革を発送し、印傳屋 上原勇七で漆付けが行われる。
また、「環境への配慮もされているから、革を使わせてもらうメーカーとしてとてもありがたい」という話もされていました。
以前から、排水の浄化や薬品使用量の低減に努めています。染料の場合は、まずは色ありきなので使用量を減らすのが難しい場合もありますが、発がん性のものは一切使用していません。薬品も同様に、薬品屋さんと相談して、できるだけ環境への負荷が少ないものを使用しています。また、当社ではエコレザーの製造も可能です。
今回の製品をご覧になった率直なご感想は?

左から、次男の尚弘さん、代表取締役の伊藤さん、長男の公則さん